Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.12

セレン投与におけるグレーブス病(バセドウ病)眼症の改善効果

Selenium and the Course of Mild Graves' Orbitopathy
(N Engl J Med 2011; 364:1920-1931 | May 19, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1012985

【背景】
 ・グレーブス病(バセドウ病)の半数に眼病変が合併する。
 ・グレーブス病眼症(眼球突出性甲状腺腫)は、症状が悪化するまで
  積極的な治療を行わないが、QOLの低下が問題視されている。


【目的】
 セレンとペントキシフィリンが、発病のメカニズムといわれている酸素フリーラジカルや
 サイトカインを阻害する可能性に注目し、グレーブス病眼症の改善・進行抑制、
 またQOLの向上効果について検証する。


【方法概要】
 ■対象
  軽度のグレーブス病眼症患者(159例)

 ■割付(プラセボ対象・無作為割付・二重盲検)  
  ・セレン(抗酸化薬)群:100μg×2回/day(55例)
  ・ペントキシフィリン(抗炎症薬)群:600mg×2回/day(52例)
  ・プラセボ群(52例)
   ※6ヶ月間経口投与し、投与後6ヶ月間の追跡調査を行った

 ■主要評価項目
  経口投与終了後(6ヶ月時)の包括的眼評価および
  グレーブス病眼症に特定したQOL(GO-QOL)質問票スコア

 ■副次的評価項目
  臨床的活動性スコア、複視スコア


【結果概要】
 ・経口投与終了後(6ヵ月時)の評価で、プラセボ群と比較して、
  セレン群ではGO-QOLの改善が認められた(P<0.001)。
 ・また眼症所見も減少し(P=0.01)、グレーブス病眼症の進行も抑制された(P=0.01)。
 ・これらの効果は、ペントキシフィリン群では認めらなかった
  (P=0.57、P=0.12、P=0.79)。
 ・臨床的活動性スコアは全群で向上したが、セレン群が最も向上した
  (プラセボ群と比較し、P<0.001)。
 ・フォローアップ後(12ヶ月時)の評価は、経口投与終了後(6ヶ月時)の結果を裏付けている。
 ・病態の悪化により、プラセボ群の2例とペントキシフィリン群の1例は免疫抑制剤を使用した。
 ・セレン群では有害事象は認められなかったが、ペントキシフィリン群では高頻度に胃腸症状が
  認められた。


【結論要旨】
 ・軽度のグレーブス病眼症患者に対するセレン投与により、QOLの有意な改善が認められ、
  眼症所見が減少し、疾患の進行が抑制され、副作用も認められなかった。
 ・また、グレーブス病眼症患者にベネフィットがある現行対症薬(ペントキシフィリン)と
  比較しても、効果が認められた。


-------------------------------
【Team DiET の議論】
 今回、最も注意をしなくてはいけない点は、今回の試験を行った地域である。
 ヨーロッパはセレン摂取の少ない地域であり、セレンを1日に200μg摂取しても副作用を
 認めなかったが、日本の場合、通常の食事でセレンを十分に摂取できるため、
 セレンの経口投与には注意が必要である
 (日本人のセレン1日平均摂取量は100μgといわれている。)

 抗酸化薬には二面性があり、セレンであっても同様と考えます。
 セレンは健康食品として含まれていることもあり、疫力を高め、血管の老化を防ぎ、更年期障害を
 改善など色々な効能が謳われています。
 また、実際にグレーブス病眼症患者のQOLを有意に改善したり、疾患の進行を抑制したりと
 効果を発揮し、良い点ばかりが強調されていますが、注意も必要です。

 セレンは必要量と許容値の間が非常に狭く、摂取量のコントロールが非常に難しく、
 過剰摂取すると有害作用・中毒症状を引き起こします。
 また、私たちの研究室の成果から、セレンはセレノプロテインPを活性化し、インスリン抵抗性を
 上げ、2型糖尿病を誘発することがわかりました。
 (Cell Metab 2010, PCT出願WO/2008/013324)

 どのような疾患、どこの地域の患者にどのくらいの量の抗酸化薬が必要か、
 抗酸化剤の使用には最大の注意が必要であると考えます。


メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。