Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.19
下垂体偶発腫のガイドライン
Pituitary Incidentaloma: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline
(J Clin Endocrinol Metab; 96(4):894-904 | April 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/4/894.full.pdf
【背景】
・MRI等の画像診断の発達で、偶発的に頭蓋内病変が見つかる頻度が増えた。
・MRIの登場当時は、無症候あるいは乏症候性の下垂体部腫瘍として
手術されることも多かったが、次第に必ずしも積極的な治療を必要としない例も
多く含まれることが判明してきた。
【目的】
・これまで報告されてきた研究を元に、下垂体偶発腫の評価・治療の
ガイドラインについて検討する。
【結果概要】
<下垂体偶発腫とは>
・一般的に下垂体病変と無関係な理由で撮影されたCTあるいはMRIで
偶然発見される下垂体腫瘍で、腫瘍に起因する症状を持たないものをさす。
・腺腫、嚢胞等腫瘍成分は問わず、1cm未満をMicroincidentalomas、
1cm以上をMacroincidentalomasと呼ぶ。
・剖検例では、成人の10.6%が下垂体偶発腫であった。
・また、MRIでMicroincidentalomasと診断される割合は、10〜38%と非常に高い。
<下垂体偶発腫患者の初期評価>
・ホルモンの過剰分泌症候群の評価を行うことを勧める。
(特にプロラクチン産生腺腫の確率は39%と高いため、検査は必ず行った方がよい)
(長期の罹患率を減少させるため、成長ホルモン産生腺腫の検査を行うことも推奨する)
・下垂体機能低下症の評価を行うことを勧める。
(下垂体偶発腫患者の10〜40%の割合)
(特にマクロな場合、ミクロでも6〜9mmの時は下垂体機能低下症である割合が高い。)
・MRIで腫瘍が視神経や視交叉に接している場合、視野欠損を調べるべきである。
(マクロな腫瘍を有する11名の患者のうち、1名が視野欠損を2名が
視交叉の圧縮があった。)
・CTだけでなく、MRIも行い、腫瘍がどこにあり、どれくらい広がっているのか
調べるべきである。
(CTと比較したMRIの利点としては、コントラスト分解能が高いこと、
骨によるアーチファクトが生じないため、骨に近接する病変の診断には有用性が
高いことなどが上げられる。)
<下垂体偶発腫患者のフォローアップ>
・手術行わない場合のフォローアップは、比較試験がないため、経験則であるため
エビデンスは低め。
・マクロの場合は6ヶ月ごと、ミクロの場合は1年ごとにMRIで評価を行うのが望ましい。
(6ヶ月や1年で大きさに変化がなければ、検査期間を延ばしても良い。)
・腫瘍が視神経や視交叉に接している場合、必ずMRIやCTで検査を行う。
・マクロの場合、腺腫の増大は24%の割合であり、また腺腫が増大すると
下垂体機能低下症の発症率が上がる。
(ミクロの場合、腺腫の増大が見られなければ、下垂体機能低下症の検査は必要ではない。)
・サイズの増大や症状が見られる場合には、更なる検査を行うのが望ましい。
(急激な腫瘍の増大は下垂体機能低下症発症のリスクを高める可能性がある。)
<下垂体偶発腫の治療について>
・手術の適用としては、「視野異常」「視神経・視交叉の圧縮」「眼球運動の障害」
「下垂体卒中」「腫瘍の急激な増大」「ホルモン産生異常」「絶え間ない頭痛」などが
挙げられます。
・下垂体機能の評価を行い、機能亢進が確認され、プロラクチノーマと診断されれば、
ドーパミン作動薬による治療。それ以外であれば、手術やメディカルセラピーでの
治療となる。
・下垂体機能評価で、非機能性と診断されれば、腫瘍のサイズにより、ミクロまたは
マクロに分けられ、ミクロの場合は定期的なMRI検査、マクロの場合は視野欠損を調べ、
異常が発見されれば手術、異常がなければ、定期的なMRI検査の実施となる。
・ただし、ミクロでもマクロでも、急激な腫瘍の増大や視野異常が確認された場合は
手術適用となる。
【結論要旨】
・初期評価では、必ずMRIを行い、ホルモンの過剰分泌症候群および下垂体機能低下症の
評価を行う。
・フォローアップとしては、・マクロの場合は6ヶ月ごと、ミクロの場合は1年ごとに
MRIで評価を行う。
・治療については、「急激な腫瘍の増大」や「視野異常」、「ホルモン産生異常」などが
ない場合は、MRIでの経過観察を行う。
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【Team DiET の議論】
今回のメタボクラブでは、アメリカで発表された下垂体偶発腫の総説を抄読しました。
海外の治療ガイドラインというと、なかなか読む機会がありませんが、
先進の医療を行う大学病院の医師の役割として目を通しておく事は必要と考えます。
今回の総論も対象となった研究の被験者数が少なかったり、質の低いエビデンスであったり
しますが、約1割の人が下垂体偶発腫であること、腺腫が91%と意外に頻度が高いこと、
腫瘍が6mm以上で下垂体機能低下症の発症の可能性が上がることなど、学び取れる事も
多くあります。
内分泌の評価は、ざっくり言えば、
「腫瘍性」or「非腫瘍性」
「機能性が高い」or「機能性が低い」
「機能性」or「非機能性」
「陽性」or「陰性」
が挙げられる。
内分泌内科医は、MRI画像などで診断を行う前に疑わしき疾患を血液検査や
ホルモン検査から導き出し、脳神経外科と連携して診断・治療を行うことが必要である。
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