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Team DiET Colloquium vol.21

1型糖尿病患者の血糖コントロールと心不全発症の関連性

Glycaemic control and incidence of heart failure in 20,985 patients
with type 1 diabetes: an observational study
(The Lancet, Volume 378, Issue 9786, Pages 140 - 146, 9 July 2011)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60471-6/abstract


【背景】
 ・1型糖尿病では、血糖コントロールと微小血管障害および大血管障害との関連性は
  証明されているが、心不全との関連性はこれまで明らかではない。


【目的】
 スウェーデン国立糖尿病協会に登録された1型糖尿病患者を対象に大規模コホート研究を行い、
 血糖コントロールと心不全の関連性について検討する。


【方法概要】
 ■対象:以下の3つを満たす20.985名
  ・1998年1月~2003年12月までにスウェーデン国立糖尿病協会に登録
  ・18歳以上の1型糖尿病
  ・心不全と診断されていない

 ■追跡期間:以下の2つうちいずれか
  ・心不全にて入院
  ・2009年12月31日の調査終了まで

 ■評価
  ・登録時のHbA1cの値で分類し、各群の特徴(HbA1cを含む)と心不全との関連性を評価


【結果概要】
  ・9年間の追跡期間中に635人(3%)が心不全を主病名あるいは副病名として入院した。
    ・主病名:288人(45%)→ 相対リスク 1.36(1.22~1.52)/HbA1c1%増
    ・副病名:347人(55%)→ 相対リスク 1.26(1.44~1.39)/HbA1c1%増
  ・心不全の発症率は、全体で年間3.38人/1000人であった。
  ・心不全の発症頻度はHbA1cと相関しており、HbA1c<6.5%の群は年間1.42人/1000人
   であったが、HbA1c≧10.5%の群は年間5.20人/1000人であった。
  ・年齢、性別、糖尿病罹病期間で補正した場合、HbA1c≧10.5%の群は、
   HbA1c<6.5%群と比べ、心不全の相対危険率は6.37倍であった。
  ・更に喫煙状態やBMI、収縮期・拡張期血圧、合併症の有無で補正しても、
   HbA1c≧10.5の群では、HbA1c<6.5%の群と比較して、心不全の相対危険率は3.98倍と
   高値であった。
  ・心不全の危険因子としては、HbA1c(/1%増加)が最も高く、続いて年齢(/10歳増加)、
   糖尿病罹病期間(/10歳増加)、喫煙、BMI(/1kg/m2増加)の順であった。
  ・脂質異常に関しては、調査を行えた18,281人のうち、心不全の発症は502人(3%)
   であった。
  ・HDL-Cの増加による心不全の予防効果は認められたが、LDL-Cと心不全との関連は
   証明できなかった。


【結論要旨】
  ・1型糖尿病の患者の約30人に1人は心不全にて入院しており、
   心不全は糖尿病の主な合併症の一つと考えられる。
  ・1型糖尿病において血糖コントロールの不良は、心不全にて入院するリスクを増加させる。

  ・HbA1c≧10.5%の群は、他の心血管疾患の危険因子を除いても、HbA1c<6.5%の群に比べ
   4倍も心不全になりやすい。
  ・虚血性心疾患や高血圧、その他の心不全のリスクとは関係なく、HbA1cの1%増加は、
   心不全の発症リスクを30%増加させた。
  ・糖尿病罹病期間と心不全発症には相関があり、心不全の発症リスクは10年間毎に
   34%増加する。

  ・今回のコホート研究では、血糖コントロール不良とともに他の危険因子も増加しており、
   血糖コントロール単独と心不全の発症との関連は示せなかった。


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【Team DiET の議論】
 本論文は、1型糖尿病でも2型糖尿病でも、やはり血糖値自体が心不全発症に影響を
 及ぼしていることが判った重要なstudyであった。

 ただ、エンドポイントを「心不全での入院」とし、評価してしまったことに問題を感じる。
 仮に同じ状態の心不全の患者がいても、HbA1cの値が高ければ入院となる確率が高くなり、
 主治医の判断(主観)で、エンドポイントが決まってしまうためである。
 こういったソフトエンドポイントは、他のstudyでも問題となっており、
 研究結果自体の信頼性が乏しくなってしまう。
 今後、臨床研究の計画を立てる際には、検査データなど他の人から見ても明らかな評価項目を
 エンドポイントとして設定する必要がある。

 「インスリンなきところに肥満なし」と言われるほど、不適切なインスリン投与で、
 BMIが高くなる傾向がある。
 1型糖尿病の患者さんは、罹病期間が長く、インスリン投与期間も長くなるため、
 BMIが高くなると考えられるが、本studyの対象患者の平均BMIは25.0であり、
 日本人より肥満傾向が高いことが判る。
 できれば、年齢別で心不全の発症率を比較したように、BMIでも発症率の比較を行い、
 肥満形と痩せ形とで段階的に心不全が増えているかを示してあれば、
 BMIが低い日本人にとっては、更に興味深い結果になったと思う。


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