Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.23
新規2型糖尿病患者を対象とした心血管危険因子における早期治療介入比較試験(ADDITION-Europe試験)
Effect of early intensive multifactorial therapy on 5-year
cardiovascular outcomes in individuals with type 2 diabetes
detected by screening (ADDITION-Europe): a cluster-randomised trial
(The Lancet, Volume 378, Issue 9786, Pages 156 - 167, 9 July 2011)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60698-3/abstract
【背景】
・2型糖尿病では、心血管イベントを中心とする致死的な合併症に対して
治療が必要となることが多い。
・長期の糖尿病患者や微量アルブミン尿のある患者に対して、各種強化治療を行うことで
心血管イベントや死亡のリスクを半減させることができる。
・血圧、脂質、血糖などに対する治療は、心血管イベントの減少効果があると考えられるが、
診断時から治療を開始することの有用性は分かっていない。
【目的】
2型糖尿病と診断後、早期に多因子強化治療を開始することで、心血管イベントを
減少させることができるのかを検討した。
【方法概要】
■対象:以下の条件を満たす3057名
・デンマーク、オランダ、イギリス(ケンブリッジ州とレスター州)の343施設
・これまでに糖尿病と診断されていない40-69歳(オランダは50-69歳)
■割付(施設ごとに下記2群に無作為割付)
・強化治療群(161施設・1,678例):
目標値を定め、心血管危険因子に対する強化治療を実施。
(HbA1c<7.0%、血圧≦135/85mmHg、TC<193mg/dL(虚血性心疾患既往なし)未満、
TC<173.7mg/dL(虚血性心疾患既往あり)、禁忌でない限りアスピリンを投与)
家庭医と看護師に対する定期的な指導ミーティングも実施。
・通常治療群(157施設・1,377例):
各施設で適用している推奨治療を実施。
家庭医には診断検査の結果を伝えるのみ。
■平均追跡期間
5.3年
■主要評価項目
5年以内の初発複合心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、
血行再建術、非外傷性を含む下肢切断)の発症
■副次評価項目
全ての主要評価項目および全死亡率。
■評価
介入前と5年後で患者の健康状態を、血液データや身体所見、問診で得られたデータから評価
【結果概要】
・5年の経過観察期間中で、両群ともに心血管危険因子の改善が見られた。
・心血管危険因子(HbA1c、血圧、脂質)は、わずかだが強化治療群で有意に改善を認めた。
・初発複合心血管イベントは、強化治療群で7.2%、通常治療群で8.5%であった。
(ハザード比:0.83)
・各心血管イベント別に比較しても、両群で有意な差は見られなかったが、強化治療群の方が
少なかった。
・また、初発心血管イベント発症率は、経過観察期間当初は差がないが、4年頃から両群に
差が生じ、強化治療群の方が低くなった。
・全死亡率は強化治療群で6.2%、通常治療群で6.7%であった。(ハザード比:0.91)
・死亡率については、経過観察期間での差は認められなかった。
【結論要旨】
・2型糖尿病患者に対して早期に強化治療を開始することで、心血管危険因子は改善する。
・しかし、5年の観察期間では、心血管イベントおよび死亡率の有意な改善は認めない。
-----------------------------------------
【Team DiET の議論】
今回のstudyでは、強化治療群と従来治療群でHbA1c、血圧、脂質に有意な差が
見られなかったため、糖尿病と診断された初期から、強化治療を行うことの有用性は
明らかにはできなかったが、他のstudyと比較して、心血管イベント数や死亡率も
低かったことから、心血管危険因子における包括的治療の重要性を示す結果となっている。
また、今回は糖尿病と診断され直ちに治療を開始したため、強化治療群のHbA1c目標値が
<7.0%(JDS値では<6.6%)であり、観察期間終了時のHbA1cが6.5%であるにも関わらず、
インスリンの使用率は6.3%であり、かなり少ない。
このことは、ACCORD試験の強化治療群(目標値:HbA1c<6.0%、観察期間終了時の
HbA1c:6.4%)でのインスリン使用率77.3%と比較すると明確である。
これまでは、長期試験となると10〜20年の覚悟が必要と思っていたが、5年間でもある程度の
結果が出せることが判ったことでも、重要な試験であった。
当研究室でも、数多くの比較試験を行っているが、これまでのような3ヶ月間といった
短い期間の試験だけでなく、問題なく続けられる(副作用の少ない)薬剤を使用して、
長期比較試験を実施し、エビデンスの創出に尽力していきたい。
メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。