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Team DiET Colloquium vol.26

黒人女性における腹部内蔵脂肪と死亡リスク

General and Abdominal Obesity and Risk of Death among Black Women
(N Engl J Med 2011; 365:901-908 | September 8, 2011)
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1104119


【背景】
 ・2020年までに米国では、黒人女性の70-90%がBMI≧30・腹囲≧88cmの肥満になると
  見積もられている。
 ・白人成人を対象とした大規模なプール解析から、BMIと死亡リスクの関連を検討した結果、
  BMIと全死因による死亡の間にJ字型の関連が見られ、最適なBMIは20.0-24.9であり、
  BMI≧25になると死亡リスクが上昇することがわかっている。(NEJM363:2010)
 ・アジア人を対象としたプール解析の結果、東アジア人ではBMIと死亡リスクの関連はより弱く、
  また、南アジア人ではBMI増加と死亡リスク上昇に関連は認められないことがわかっている。
                              (NEJM364:2011)


【目的】
 ・これまで黒人に関しては,入手可能な限られたデータからの解析しかされておらず、
  BMIがきわめて高い場合(≧35.0)にのみ死亡リスクが上昇することが示唆されている。
 ・今回、黒人女性を対象に大規模試験を実施し、BMIおよび腹囲と死亡リスクの関連を検討する。


【方法概要】
 ■対象:以下の条件を満たす黒人女性51,695名
  ・登録時の年齢が 21~69 歳
  ・癌または心血管疾患の既往なし

 ■対象外:以下の場合は対象外とした
  ・登録後3年以内に死亡
  ・30歳以前の死亡

 ■解析
  ・「黒人女性の健康調査」の 1995~2008 年の追跡調査データをもとに行った。
    (健康調査内容:教育歴・婚姻状態・身体活動度・飲酒歴・喫煙歴)
  ・多変量比例ハザードモデルを用いてハザード比と 95%信頼区間を推定した。


【結果概要】
  ・追跡調査期間中に確認された1,773例の死亡のうち770例(43%)は非喫煙者であった。
  ・非喫煙者の死亡リスクは、BMI 20.0~24.9で最も低く、BMI≧25ではBMIが増加するほど
   死亡リスクは上昇した。
  ・非喫煙者の多変量補正後ハザード比(BMI基準カテゴリーを「22.5~24.9」とした場合)
      ・BMI 25.0~27.4:1.12(95%信頼区間:0.87~1.44)
      ・BMI 27.5~29.9:1.31(95%信頼区間:1.01~1.72)
      ・BMI 30.0~34.9:1.27(95%信頼区間:0.99~1.64)
      ・BMI 35.0~39.9:1.51(95%信頼区間:1.13~2.02)
      ・BMI 40.0~49.9:2.19(95%信頼区間:1.62~2.95)
  ・BMI<30.0では,腹囲の増大と全死因死亡リスクの上昇に関連がみられた。
  ・非喫煙者の学歴で分けて解析した結果、12年以上の教育歴ある者は、高卒者よりも
   BMIおよび腹囲と全死因死亡率の間に強い相関関係があった。
  ・非喫煙者の年齢・身体活動度は死因とBMI・腹囲と相関関係はなかった。
  ・非喫煙者のBMIおよび腹囲は、心疾患死亡リスクと強い相関関係があったが、
   癌死亡リスクには相関がみられなかった。


【結論要旨】
  ・非喫煙の黒人女性では,BMI>25.0の過体重・肥満患者で、全死因死亡リスクが上昇した。
  ・この傾向は白人でみられる傾向と類似している。


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【Team DiET の議論】
 当研究室とYKKとの共同研究において、代謝異常の予測因子は、男性はウエスト径、
 女性はBMIであると報告しているが、今回の論文でも女性はウエスト径よりもBMIの方が、
 より死亡リスクと相関があり、北陸コホート研究を支持する結論となった。

 死因との関係については、心血管疾患ではBMIやウエスト径と強い相関があったが、
 ガンについては、BMIやウエスト径との相関はなく、アジア人とは異なる結果となった。
 女性は閉経前後で体質が大きく変化し、疾患の発症リスクも大きく異なる事が考えられるため、
 その点についても、考察を加えるべきと考える。

 今回、興味深い結果として、12年以上教育を受けた非喫煙者ほど、BMIが増加すると
 死亡リスクが高まる結果となった。
 簡潔に言えば、「教育を受けて太った人の一番死亡リスクが高い」ということになるが、
 おそらく死亡リスクの上昇は、ライフスタイルに起因があり、栄養状態や仕事内容が
 要因となったのではないかと考えられる。

 このことからも、生活習慣病発症リスクとして、人種だけでなく、住んでいる場所や環境、
 栄養状態も重要なファクターであるため、更に考察を加える必要がある。
 今回の研究は米国に住む黒人女性のみを対象として行っているため、他の地域に住む
 黒人女性での研究を加え、更なる成果の発表を待ちたい。


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