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Team DiET Colloquium vol.28

100万人以上のアジア人を対象としたBMIと死亡率との関連

Association between Body-Mass Index and Risk of Death
in More Than 1 Million Asians
(N Engl J Med 2011; 364:719-729 | February 24, 2011)
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1010679

【背景】
 ・ほとんどのBMIと死亡率に関しての研究は、ヨーロッパ系の集団を対象としており、
  アジア系集団におけるBMIとで死亡率との関連を示した報告はない。
 ・欧州における定義(BMI>25=過体重、BMI>30=肥満)に比べ、アジア人では同じBMIでも
  体脂肪が多く、また2型糖尿病、高血圧、脂質異常が多い。


【目的】
 ・アジア人における適正BMIに関して未だ一致した結論がないため、
  BMIと死亡率についての関連を調べる。

【方法概要】
 ■対象:アジア対象に行われた19のコホート研究に参加した1,141,609人
 ■対象外:18歳未満、BMI>50kg/m2、登録後3年以内の死亡例
 ■平均追跡期間:9.2年
 ■統計:
  ・BMIを10のカテゴリーに層別化。
  ・東アジア(日本・中国など)およびインド/バングラディシュに分け統計解析。
  ・年齢・性別・教育水準・居住地・既婚状態などの背景因子を考慮して統計処理。
  ・喫煙や疾患による体重減少の影響を除外して解析。
  ・Cox比例、メタ解析を使用。


【結果概要】
  ・死亡は約120,758人(11%)で、死因は心血管疾患が35.7%、癌が29.9%、
   そして、その他の原因が34.3%でした。
  ・東アジア集団での全死亡率は、BMI 22.6~25 kg/m2をreferenceとした場合、
    ・BMI≦15.0 kg/m2:456人(ハザード比:2.76)
    ・BMI 25.1~27.5 kg/m2:11,009人(ハザード比:0.98)
    ・BMI 27.6~30.0 kg/m2:4679人(ハザード比:1.07)
    ・BMI 30.1~32.5 kg/m2:1623人(ハザード比:1.20)
    ・BMI 32.6~35.0 kg/m2:484人(ハザード比:1.50)
    ・BMI<35.1 kg/m2:283人(ハザード比:1.49)

  ・インド/バングラディシュ集団での全死亡率は、
   BMI 22.6~25 kg/m2をreferenceとした場合、
    ・BMI≦15.0 kg/m2:755人(ハザード比:2.14)
    ・BMI 25.1~27.5 kg/m2:1269人(ハザード比:0.98)
    ・BMI 27.6~30.0 kg/m2:537人(ハザード比:0.94)
    ・BMI 30.1~32.5 kg/m2:233人(ハザード比:1.03)
    ・BMI 32.6~35.0 kg/m2:64人(ハザード比:0.86)
    ・BMI<35.1 kg/m2:57人(ハザード比:1.27)

  ・東アジア、インド/バングラディシュ集団において、喫煙歴の有無で、
   死亡率に変化はなかった。
  ・疾患による体重減少の影響を除外するため、冠動脈疾患、脳卒中、癌を除外しても、
   死亡率に変化はなかった。
  ・登録後3年以内に2年プラスして、登録後5年以内の死亡例について除外しても、
   低BMIの死亡率は軽度減弱するものの、高BMIにおいては不変だった。
  ・東アジア、インド/バングラディシュ集団において、低BMIでの死因は、
   呼吸器疾患によるものが最多で、死因から呼吸器疾患を除くと、低BMIでの死亡率は
   顕著に減少した。


【結論要旨】
  ・全アジア人集団で、低体重は死亡リスクの大幅な増加と関連していた。
  ・しかし、東アジア集団では 高BMIに関連する死亡の超過リスクが認められたのに対し、
   インド/バングラデシュ集団では認められなかった。

  ・低BMIにおいても、ウエストヒップ比や腹囲の増加が、死亡率増加に関連する
   という報告があるが、本研究ではウエストヒップ比や腹囲を調査項目に
   含めていない欠点がある。
   (※筋量の少ない女性や、筋量の多い男性をひとくくりでBMIのみで評価して良いか)
  ・低BMIにおける死亡率増加の一因には、疾患による体重減少があり、
   本研究では補正項目としていたが、baselineでの感染症、慢性呼吸器疾患を
   除外できておらず、十分な補正ではなかった。
  ・低BMI層では、今回の研究で補正していない慢性疾患・不健康・低生活水準が
   あると予想され、これらは低栄養や寿命の短縮の一因となりうる。
  ・発展途上国では、高BMIはより高い社会経済的水準で、より高い医療機関利用率の
   傾向があり、社会経済水準がBMIと死亡率に影響している可能性がある。


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【Team DiET の議論】
 これまでBMIと死亡率との関連についての研究は、欧米人を対象に行われたものが多く、
 アジア圏を対象に行われた本研究は大変興味深い内容であった。

 WHOで論議された人種による肥満定義のBMI値についてだが、今回の結果を考えると
 アジア人における肥満のBMI値は、カットオフ値設定する以前に、
 BMI値設定自体の必要性を考えさせられる内容であった。

 対象国におけるBMIと死亡率の関連は、欧米の結果と比較すると
 高BMI(BMI 25~30 kg/m2)での死亡増加率が低く、インド/バングラディシュに至っては、
 高BMI(BMI 25~35 kg/m2)でも死亡率が上昇しない結果となった。

 考察でも述べられている通り、経済水準が死亡率に影響を与えていることが考えられるが、
 教育水準や居住地、婚姻などについては補正があるものの、裕福さ(年収)について
 補正されていないことに問題があると考える。
 インド/バングラディシュについては、貧困の差が激しいため、経済水準(年収)によって
 正しく補正を行い、BMIと死亡率との関連を明らかにしてもらいたかったと思う。

 では、東アジアでの高BMIが欧米ほど死亡率を上げない理由について、どう考えるのかが
 問題となる。
 東アジア集団のうち、36%は中国であるが、その他は日本(51%)、シンガポール(7%)、
 台湾(3%)、韓国(2%)であるため、経済水準以外の何かが関与している可能性がある。

 これを明らかにするためにも、本研究はアジア圏を対象に行われた大規模解析であるので、
 これらのデータを利用し、日本人におけるBMIと死亡率との関連について更に詳しく
 まとめて頂きたいと思う。


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