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Team DiET Colloquium vol.31

アテローム性頭蓋内動脈狭窄におけるステント治療の有効性(SAMMPRIS試験)

Stenting versus Aggressive Medical Therapy for Intracranial
Arterial Stenosis
(N Engl J Med 2011; 365:993-1003 | September 15, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1105335

【背景】
 ・アテローム性頭蓋内動脈狭窄は脳梗塞の重要な因子であり、脳梗塞の再発予防のため、
  経皮経管血管形成・ステント留置術(PTAS)が行われる症例が増えている。
 ・しかし、無作為化試験による PTASと薬物治療との治療の有効性の比較検討は、
  まだ行われていない。


【目的】
 ・一過性脳虚血性発作(TIA)または脳梗塞を起こした患者に対し、PTASによる治療が
  脳梗塞再発予防およびイベント抑制できるか検討する。


【方法概要】
 ■対象:以下の条件を満たす451例
  40~79歳の2型糖尿病患者で、HbA1c 7.5% 以上。
  過去に心血管系疾患の既往もしくは心血管疾患の追加危険因子を有する患者。
 ■割付(無作為割り付け)
  ・PTAS群:PTAS+積極的内科治療
  ・積極的内科治療群:積極的内科治療のみ
   ※ただし、PTAS群の脳梗塞または死亡の30日以内の発生率が高かったため、登録を中止。
    追跡調査は継続中であり、現在の平均追跡期間は11.9ヶ月である。
 ■積極的内科治療(両群で同じ)
  ・バイアスピリン325mg+プラビックス75mg
  ・降圧薬1種(収縮期血圧≦140mmHg(糖尿病患者では≦130mmHg))
  ・ロスバスタチン(LDL-cho≦70mg/dl
  ・生活指導(喫煙・運動)
 ■PTAS治療
  ・自己拡張型のWingspanステントシステムを使用
 ■主要評価項目
  ・30日以内の脳卒中および死亡
  ・30日経過後の同病変に起因する脳梗塞


【結果概要】
  ・451例を割付した時点で,PTAS群の脳梗塞または死亡の30日以内の発生率が高かったため、
   登録を中止した。
    <脳梗塞または死亡の30日発生率>(P=0.002)
      ・PTAS群:14.7%(非致死的脳梗塞:12.5%、致死的脳梗塞:2.2%)
      ・積極的内科治療群:5.8%
       (非致死的脳梗塞:5.3%、脳梗塞とは無関係の死亡 0.4%)
  ・また、30日経過後の同病変に起因する脳梗塞については各群で差はなかった。
      ・PTAS群:6%
      ・積極的内科治療群:6%
  ・追跡調査中における主要エンドポイントイベントの発生確率についても2群間で
   有意に異なった。
    <主要エンドポイントの1年発生率>(P=0.009)
      ・PTAS群:20.0%
      ・積極的内科治療群:12.2%


【結論要旨】
  ・アテローム性頭蓋内動脈狭窄症患者において、積極的内科治療単独はPTASより
   優れていた。
  ・その原因は、PTAS後の早期脳梗塞リスクが高かったことと、積極的内科治療単独での
   脳梗塞リスクが予測より低かったことの両方にあった。


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【Team DiET の議論】
 数年前から言われている通り、今回の結果を見ても脳梗塞の再発予防として、
 頭蓋内動脈狭窄に対し、PTASを行うことは無駄であることが判った。

 今回使用している脂質降下剤はクレストール(ロスバスタチン)であり、
 ストロングスタチンを使用して厳格な脂質コントロール(LDL-C<70)を行ったことが
 今回の結果につながったと考える。

 ただし、今回の試験ではPTAS群の患者に対し、3日以内にPTASを実施したことに
 疑問が生じる。
 当院では、70%以上の頭蓋内動脈狭窄を有する患者に対し、ステンディングを行う際には、
 発症後3週間程経過した後に行っている。
 今回、主要エンドポイントの原因の1つとして手技的な問題と指摘しているが、PTASを行った
 タイミングにも問題があったと考える。

 また、今回は70%以上の狭窄を対象としたため、もっと狭窄率の低い患者で、予防的な効果を
 期待してPTASを行えば、結果は違ってきたのかもしれない。

 とはいえ、内科医の立場から言わせて頂けば、「内科の時代が来た!」と
 胸を張りたい気分である。
 頭蓋内動脈狭窄については、内科による薬物投与と生活指導による治療の方が、
 外科的治療に比べ、再発率が低く、イベント発生率も抑制できるとわかったことは、
 内科の大きな進歩である。

 内科は外科と比べ、地味と言われてきたが、外科は手技を極めても、
 全く新しい治療法ができたら、これまでの努力をひっくり返されるかもしれないが、
 内科は地道な分、努力が覆されることがないと言えるのではないだろうか。


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