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Team DiET Colloquium vol.34

体重減少に対するホルモン適応の持続性

Long-Term Persistence of Hormonal Adaptations to Weight Loss
(N Engl J Med 2011; 365:1597-1604 | October 27, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1105816

【背景】
 ・約70億人の世界人口のうち、肥満人口は約6億人であるとされ、ダイエットの難しさを
  物語っています。(ちなみに糖尿病患者は3億4700万人)
 ・体重が減少すると、体重の恒常性調節に関与するいくつかの末梢ホルモンの血中濃度が
  変化すると言われている。
  【食欲抑制系ホルモン:レプチン、ペプチドYY、コレシストキニン(CCK)、GLP-1、
             アミリン、インスリン、膵臓ポリペプチド(PP)】
  【食欲亢進系ホルモン:グレリン、胃酸抑制ペプチド(GIP)】


【目的】
 ・体重減少によるホルモンの変化が、一過性であるのか長期間持続するのを調査し、
  食事制限による減量後に高い割合で起こるリバウンドの原因を究明する。


【方法概要】
 ■対象:以下の条件を満たすオーストラリア人:50例
  ・BMI:27~40(過体重または肥満)の男性または閉経後の女性
  ・糖尿病など重大疾患のない人(体重に影響を及ぼす薬の服用なし)
  ・非喫煙者

 ■方法(シングルアーム)
  ・0~8週:1食当り500~550キロカロリーの低エネルギー食(Optifast VLCD、ネスレ)と
        低でんぷん野菜2カップのみ
  ・9~10週:10%以上減少した参加者は徐々に通常の食品が再導入。
        栄養士による個別カウンセリングにより、通常食での体重維持を指導
        週の大半、適度に激しい運動を30分するよう指導
  ・11~62週:2ヶ月ごとに指定病院を訪問。
        それ以外にも電話相談を実施。

 ■検査内容(0週、10週、62週で実施)
  ・タニタの体組成計による身体測定および空腹時採血
  ・採血後、提供された朝食(炭水化物51%、脂肪33%、たんぱく質16%の550kcal)を食べ、
   食後30分、60分、120分、180分、240分で採血
  ・食欲評価のためのアンケートを実施

 ■解析
  ・ITT解析(ベースラインの測定値で置き換え)
  ・PBB(Per Protocol Based)解析(試験を完了した被験者のみで解析)

 ■除外
  ・中央値から5SD以上外れた1人と測定もれ(2%)


【結果概要】
  ・最初の8週間の減量で4人が脱落、また7名は10%の体重減少がなく除外、更には、
   試験終了までの62週の間に5名が脱落し、最後まで継続できたのは34/50人であった。
  ・試験を完遂した34名は、10週間のダイエット期間で平均13.5kg体重減少し、
   他の身体測定の全ての結果がベースラインより有意に減少していた。
  ・試験終了の62週時には平均5.5kgの体重増加があったが、体重についてはベースラインより
   有意に低い値を維持していた。

  ・膵臓ポリペプチドを除いて、体重減少により血中ホルモン濃度は減少しており、
   食欲抑制系のホルモン分泌が低下する結果となった。
  ・体重減少によりどちらの血中ホルモン濃度も増加しており、食欲亢進系のホルモン分泌が
   増加する結果となった。
  ・アンケート調査では、体重減少により空腹感も食欲も増し、その傾向は62週時でも
   継続された。


【結論要旨】
  ・食事制限により一気に体重減少させると、食欲を司るホルモンバランスが崩れ、
   ダイエット終了して1年を経過しても、元のホルモンバランスに戻す事は難しい。
  ・リバウンド予防のためには、この変化に拮抗するための長期的戦略が必要と考えられる。


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【Team DiET の議論】
 今回の論文は内容もさることながら、「たったこれだけの研究で『New England Journal』に
 掲載されてしまうのか!」という驚きの方が大きかった。

 被験者数は50名、しかもその内16名が脱落し、最終的に評価できたのは、たったの34名である。
 測定した項目も、身体測定や食欲に関する既知のホルモンなどであり、特に目新しい項目はない。

 とはいえ、厳正な審査を通って『New England Journal』に載った理由は、本研究が
 「過剰な食事制限によるダイエットが後にリバウンドを引き起こす原因がホルモンにある」と
 報告したファーストレポートであるからと考える。

 「今までに誰もやっていない研究をする」これに尽きるのではないだろうか。
 若い研究者も「被験者が万人単位でなくても、割り付け研究でなくても
 『New England Journal』に載るチャンスがある!」そう考えると更に臨床研究を
 考える楽しみが増えると思う。

 本論文の内容についてだが、ダイエットに重要なことは「食事を制限するのではなく、
 バランスの良い食事を心がける」であることが改めて示されたのではないだろうか。
 BMIが35あるような被験者にオプティファーストと野菜だけで8週間というのは、
 かなり過酷な食事制限である。
 しかも頑張って痩せたのに、1年以上も空腹感に悩まされ、我慢して食欲を
 抑えなくてはならない。
 本試験でも、62週までのフォローアップ期間で5名脱落しており、過酷なダイエットが
 破綻することを暗に示している。

 減量は一気に体重を落とす事を目的とするのではなく、徐々に食事を見直す事が大切であり、
 ホルモンバランスを崩す事なく体重減少できれば、リバウンドしないダイエットが
 可能になるのではないだろうか。


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