Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.36
中等度の持続運動(SUBEX)による血糖値変動について
Blood Glucose Regulation during Prolonged, Submaximal,
Continuous Exercise: A Guide for Clinicians
(J Diabetes Sci Technol ; 4(3):694-705 | May 1, 2010)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2901048/pdf/dst-04-0694.pdf
【背景】
・2型糖尿病だけでなく多くの慢性疾患で日常的な運動が取り入れられている。
・特に長時間(30~60分)の中等度(40~70%Vo2max)の持続運動(SUBEX)は、
慢性疾患の患者に推奨されている
【目的】
・長時間の中等度の持続運動(SUBEX)が、血糖変動に与える影響について検討する。
【結果概要】
<SUBEXついて>
・SUBEXとは、運動強度がVO2max(最大酸素摂取量)の40〜70%となるトレーニングを
30分〜1時間継続して行うことをさす。
・2006年に米国糖尿病学会(ADA)が推奨した運動も、強度が40〜60%VO2maxで
週に150分(週3日以上、運動未実施の日が2日以上開かない)の実施であり、
SUBEXに相当する。
・メカニズムは明らかになっていないにもかかわらず、SUBEXは急性的にも慢性的にも
前向きな適応を導く
<健常者のSUBEXによる血糖変動ついて>
・運動開始直後は、肝臓からの糖放出が起きるため、一時的に血糖値は上昇するが、
そのメカニズムについては不明である。
・血糖値の上昇は一過性であり、その後GLUT系の作用により血糖値は低下する。
・典型的にこの程度の運動では、血糖値が10~15%以上低下することはない。
・しかし、肝臓では2倍以上のグルコースを放出している。
・2型糖尿病患者では、血糖値を20~40㎎/dl低下させる。
<SUBEXに対するインスリン/グルカゴン応答について>
・SUBEXに対するインスリングルカゴン応答はもっとも重要な血糖の調節機構である。
・インスリンによるグルコース取り込みは、インスリン受容体⇒IRS-1⇒PI3-Kの経路を
たどり、GLUT4がトランスロケーションすることで促進される。
・持続運動は、AMPキナーゼを活性化することで、インスリンに依存せず、GLUT4が
トランスロケーションし、筋肉の細胞内へのグルコース取り込みを促進する。
・グルカゴンによるグルコース産生は、グルカゴン受容体⇒Gタンパク質⇒cAMP⇒PKAの
経路をたどり、グリコーゲンの分解を促進する。
・持続運動中にグルカゴン分泌を促進する主な刺激は、血糖値の低下と血中インスリン濃度の
低下である。
<継続した運動トレーニングに対する応答について>
・運動により、血中インスリン濃度低下や血中グルカゴン濃度上昇が起こるが、
継続した運動トレーニングを行うことで、インスリン濃度低下率は小さくなり、
血中グルカゴン濃度上昇率も小さくなる。
・これは、継続したトレーニングを行うほど、カテコラミン反応が大きくなるためである。
<カテコラミンについて>
・カテコラミンはアドレナリン(エピネフリン)やノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の
総称であり、血糖上昇に関与するストレスホルモンである。
・SUBEX運動中の男女間で、血糖値の変動に差がないにもかかわらず、アドレナリンと
ノルアドレナリン濃度には著明な差があった。
・男性は、ノルエピネフリン、エピネフリン、膵ポリペプチド、インスリン抑制、収縮期血圧、
糖質酸化において大きな反応を示し、女性は脂肪分解で大きな反応を示した。
<脂肪分解について>
・運動持続時間が長くなりインスリンレベルが下がってくると、脂肪分解は増えてくる。
・これは、わずかでも血中インスリンの濃度増加が起こると脂肪が分解されるためである。
【結論要旨】
・SUBEXにおける血糖のコントロールは、主にインスリン/グルカゴン反応により管理される。
・しかし、カテコラミン反応や脂肪分解の活動、肝臓の感受性、受容体の数など
他のホメオスタシス機構も関与しており、それぞれが慎重に検証されなければならない。
・分子技術の進歩により、分子レベルでの治療的効果を見落とさないように
ホメオスタシスをすべての動物のレベルから調査し続けなければならない。
-----------------------------------------
【Team DiET の議論】
運動によりGLUT4がトランスロケーションすることで、糖の取り込みが促進されるという
現象については明らかになっているものの、運動によって何がはじめに影響を受け、
どのようなメカニズムでホメオスタシスが保たれるのかについては明確になっていないため、
今回のレビューに期待していたのだが、期待はずれであった。
しかし、この研究分野における進歩はめまぐるしく、さまざまな報告がされている。
例えば、2011年10月のNat Med.で発表された論文では、運動による効果は、
糖の取り込みだけではなく、GLP-1産生を増加させ、インスリン分泌を増加させると報告した。
(「Interleukin-6 enhances insulin secretion by increasing glucagon-like
peptide-1 secretion from L cells and alpha cells.」
【http://www.nature.com/nm/journal/v17/n11/pdf/nm.2513.pdf】)
今後も運動によるホメオスタシスメカニズムを明らかにするとともに、糖尿病治療における
最適な運動療法を検証していく必要がある。
当研究室でも基礎研究分野、臨床研究分野において運動効果の検証を行い、糖尿病治療の
進歩に貢献できるよう邁進していく所存である。
メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。