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Team DiET Colloquium vol.39
神経性無食欲症(拒食症)の原因および合併症について
Endocrine dysregulation in anorexia nervosa update
(J Clin Endocrinol Metab; 96(10):2939-2949 | October 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/10/2939.full.pdf
【背景】
・神経性無食欲症(拒食症)は、特に思春期の女性によく見られる精神疾患であり、
ボディイメージの歪みと慢性的な重度の低栄養を特徴とする。
・元来、精神疾患であるが深刻な内分泌合併症をきたすことが知られている。
【目的】
・これまで明らかになっていない神経性無食欲症(拒食症)の発現機序および
合併症についての最新の研究結果をまとめ、検討を行う。
【結果概要】
<拒食症の定義>(精神医学の診断基準DSM-Ⅳに基づく)
・理想体重の85%以上の体重を維持できない
・ボディイメージの歪み(痩せているのに痩せていないと感じてしまう)
・低体重の深刻さの否定
・体重増加への恐れ
・無月経(DSM-Ⅴでは削除される予定)
<拒食症の疫学>
・女性の0.3~3%が罹患している。
・元来、若年女性の疾患であるが、男性・高齢女性にもみられることがある。
<生殖機能低下ついて>
・拒食症では、視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌低下が起こる。
・そのため、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を発症することがあり、
低エストロゲン(女性ホルモン)血症に加え、低アンドロゲン(男性ホルモン)血症を
きたす。
・拒食症女性においてアンドロゲン欠乏の作用は知られておらず、アンドロゲン量と
体重には相関がないとされている。
・しかし、アンドロゲン量はうつ病と不安症の重症度に負の相関をする。
・LHの分泌低下は、拒食症の罹病期間や体重との相関はなく、月経の回復と体重の関連性も
なかった。
・低レプチンは生殖機能を阻害すると考えられており、拒食症女性でも低下傾向は見られるが、
拒食症を予想する因子にはならなかった。
<高コルチゾール血症について>
・拒食症では高コルチゾール血症をきたすことが知られている。
・血中コルチゾール濃度は、うつ病・不安症の重症度に正の相関を示し、骨塩量に負の相関を
示す。
・拒食症女性における尿中コルチゾール量の高値は、体重増加に伴う脂肪蓄積を予測する。
<GH抵抗ついて>
・拒食症は慢性的な飢餓状態であるため、GH抵抗性を引き起こす。
・拒食症患者では、GHの基礎分泌が20倍に上昇し、IGF-Ⅰは低下した。
<骨量減少ついて>
・骨量減少は重症で、拒食症では比較的良く見られる合併症である。
・月経の回復は骨量増加の予測因子となるが、骨量の増加と体重に関連性はなかった。
・月経が正常な拒食症女性は、健常女性に比べて骨量の低下を認めた。
・ペプチドYYとアミリンが骨における栄養取り込みの調節をしていると考えられており、
拒食症患者では、ペプチドYYは増加し、アミリンは減少する傾向がある。
(ペプチドYYの濃度と骨塩量には、負の相関がある)
・拒食症患者におけるビタミンDとカルシウムの取り込みに差は見られない。
・拒食症女性において骨髄脂肪の増加が見られる。(骨塩量とは負の相関)
<拒食症の病因と遺伝について>
・拒食症の56~84%に遺伝性が報告されている。
・200近い遺伝子関連研究では、食欲・エネルギー・神経伝達物質・神経内分泌などの
調節経路と関連がある仮想上の遺伝子候補が証明されている。
・現在、拒食症の病因とされる5つの遺伝子が識別されている。
<報酬系回路の調節不全ついて>
・多食嘔吐症のラットでは、特徴的な離脱症状や再発が起こることが確認され、
報酬系回路の調節不全が、摂食障害の進展に寄与している可能性が指摘されている。
<精神疾患ついて>
・拒食症の病態生理において、うつ病を含む高い精神疾患の有病率は50~75%である。
・向精神薬として用いられるセロトニンやドーパミンは体重増加させるため、
拒食症とどの程度関連があるかの判断は難しい。
<食欲を司るホルモンとの関係について>
・拒食症女性患者では、食欲抑制ホルモンであるレプチンは減少する。
・しかし、食欲抑制ホルモンのペプチドYYは増加する。
・また、食欲亢進ホルモンのグレリンは増加する。
<治療について>
・第一の手段として、体重の回復の維持のために精神科医・心理学者・栄養士のチームで
治療に当たることが一般的である。
・なお、極度の低体重・自殺企図・併存疾患においては入院加療を必要とする。
・拒食症治療に関するstudyが、いくつか行われているが、体重回復に効果のあるエビデンスは
確立されていない。
・しかし、認知行動療法によって、体重回復を達成し、再発リスクを軽減したstudyもある。
(認知行動療法:患者の痩せに対する偏った考え方を修正し、食事の仕方を改善させること)
・最近のstudyでは、思春期の女性における拒食症では、本人だけでなく、家族ぐるみで
心理療法を行うことが、効果が高く、持続性のある治療法であることが示された。
【結論要旨】
・拒食症は、性腺機能低下症・高コルチゾール血症・骨量減少などの深刻な内分泌障害を
合併する精神障害である。
・加えて、効果的な治療法はほとんどないとされている。
・更なる研究が、本疾患の疫学病理学・合併症の理解を促し、効果的な治療法を発見するために
重要である。
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【Team DiET の議論】
内分泌異常のデータについては、拒食症になったが故の内分泌異常であり、
ホルモンバランスの乱れが拒食症の原因の1つとして上げられた訳ではなく、残念であった。
ただ、以前に紹介した論文「Long-Term Persistence of Hormonal Adaptations to
Weight Loss(N Engl J Med 2011; 365:1597-1604)」で明らかになった
肥満患者における過剰な食事制限ダイエットによるホルモン異常と類似したホルモン異常が、
拒食症の患者でも起こっており、大変興味深い結果であった。
しかし、ホルモン異常のうち、食欲抑制ホルモンのペプチドYYの分泌のみが異なっていた。
過剰な食事制限ダイエット患者ではペプチドYYは低下したが、拒食症では増加しており、
このことが何を意味するのか、今後の解明が楽しみである。
また、過剰な食事制限に関わらず、ペプチドYYは肥満患者で低下傾向にあり、近年、
肥満治療薬として注目されている。
だが、拒食症と過食症は相互に移行しやすいため、開発者側はその点も留意して
慎重に開発を行うべきである。
しかしながら、昨年の欧州糖尿病学会での奥羽大学での発表では、「よく噛んで食事をする事が
GLP-1やペプチドYYを上昇させる」との報告しており、このことからも、薬に頼らずとも、
簡単な生活習慣改善で糖尿病予防や肥満予防はできることが示唆されている。
今後増え続ける生活習慣病患者に対応すべく、医療従事者側でも「生活習慣病予防につながる
気軽に実践できるメソッド」を市民に向け発信していくことも大切であると考える。
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