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Team DiET Colloquium vol.42

プライマリケア診療での肥満治療に関する2年間のランダム化試験

A Two-Year Randomized Trial of Obesity Treatment in Primary Care Practice
(N Engl J Med 2011; 365:1969-1979 | November 24, 2011)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1109220

【背景】
 ・プライマリケアの医療現場における、肥満治療の在り方が探究されている。
 ・過去の臨床研究で、医療スタッフが生活習慣指導を行った効果が報告されている。
 ・8回の簡易生活習慣指導と3ヶ月毎のプライマリケア医受診により、6ヶ月で4.4kg減量したが、
  3ヶ月毎のプライマリケア医受診のみ(生活習慣指導なし)では、6ヶ月で0.9kgの減量に
  とどまった。


【目的】
 ・今回の臨床研究は、過去の臨床研究を拡大し、2年間のランダム化試験とし、プライマリケア
  医療現場における医療スタッフによる毎月の簡易生活習慣指導の効果を評価した。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設ランダム化比較試験(6施設(都市部3施設、地方3施設))
 ■対象:以下の条件を満たす390例
  ・21歳以上で、BMIが30〜50
  ・メタボリックシンドローム基準の5項目中、2項目以上に適合する
 (※NCEP(The US National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III )
   のメタボリックシンドローム基準に基づく)
 ■割付
  ・通常ケア群(130名):
     24か月間、3カ月ごとにプライマリケア医による診察を受け、基礎疾患の治療と検査
     その際、プライマリケア医は、5〜7分の生活習慣指導を行う。
  ・簡易生活習慣指導群(131名):
     通常ケア群と同様、24か月間、3カ月ごとの診察を受け、基礎疾患の治療と検査
     毎月、メディカルスタッフによる10〜15分の生活習慣指導を受ける
  ・拡大型簡易生活習慣指導群(129名)
     簡易生活習慣指導群と同一の指導内容
     ダイエット代替食品または減量薬(オルリスタットまたはシブトラミン )
     をプライマリケア医と相談して選択し、使用する
     (※オルリスタット:中枢神経系に作用しない肥満治療薬。日本では開発中止。)
     (※シブトラミン:抗うつ薬の一種。日本では販売申請したが却下。
             2010年10月市場撤退のため、代替食品またはオルリスタットに変更)
 ■主要評価項目
  ・生活習慣改善指導は、通常ケア群と比較し、体重を有意に減少させるかを検証
 ■副次評価項目
  ・生活習慣改善指導に代替食品または減量薬を付加した効果を比較


【結果概要】
  ・2年間の試験を終了時の体重減少平均および5%以上の体重減少の割合は、
     通常ケア群:1.7±0.7kg(21.5%)
     簡易生活習慣指導群:2.9±0.7kg(26.0%)
     拡大型簡易生活習慣指導群:4.6±0.7kg(34.9%)
   であり、強化型簡易生活習慣指導群は,通常ケアよりも優れていた。
  ・試験中にシブトラミンが市場撤退となったが、シブトラミン投与例を解析から除外しても
   拡大型簡易生活習慣指導群は,通常ケアよりも優れていた。
  ・重篤な有害事象の発現率に介入群間で有意差は認められなかった。
  ・拡大型簡易生活習慣指導群の代替食品選択群と簡易生活習慣指導群では、体重減少に
   有意差は見られなかった。(通常ケア群と比較すると有意に減少)


【結論要旨】
 ・プライマリケア医が、医療スタッフと協力し、拡大型簡易生活習慣指導を行うことで、
  約1/3の肥満患者の体重を5%以上減少させた。
 ・簡易生活習慣指導群では、通常の3カ月毎のプライマリケア医受診単独と比べ、
  有意な減量効果はない結果であった。
 ・プライマリケア医と医療スタッフで行う拡大型簡易生活習慣指導によって、多くの肥満患者が、
  臨床的に意義のある減量を達成しうる。

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【Team DiET の議論】
 日本では痩せ薬は使用できず、強化型簡易生活習慣指導群の代替食品群と簡易生活習慣指導群で
 有意差は見られなかった結果を考えると、日本で生活指導を行うメディカルスタッフにとっては、
 朗報ではないだろうか。
 更には、メディカルスタッフによる毎月の丁寧な生活指導は、肥満患者の体重を減少に導くが、
 多忙な医師による時間を切り裂いての生活指導では、なかなか効果が上がらないという事である。

 これを悪夢と思う医師もいるかもしれないが、「餅は餅屋」であることを思い出してもらいたい。
 メディカルスタッフの方が生活指導が上手であるなら、スタッフ等とチームを組み、それぞれの
 得意分野で患者さんのケアを行えば良いのである。

 肥満患者を痩せさせるためには、「痩せたい」というモチベーションをどのようにして維持させ
 続けるかが、一番のポイントになると考えている。

 1つの意見として、たとえ薬を使ってでも体重が減少すれば「痩せた」と実感でき、動機維持に
 つながると考えられる。
 この点を考察する上で、医師による基礎疾患治療と痩せ薬の提供のみで、生活習慣改善指導を
 行わない群を作り、検証を行って欲しかったと思う。

 今回の結果を見ても、体重が最も減少したのは12ヶ月時点であり、試験終了の24ヶ月時点では、
 全ての群でリバウンドしてしまっている。
 このことは、受診率にも現れており、メディカルスタッフによる生活指導受診率は、半分以下に
 落ち込んでいる。

 今後は、「痩せたい」というモチベーションをいかにして維持できるかの適切な指針を
 検討していくべきであると考える。


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