Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.44
冠動脈疾患患者を対象とした2つのストロングスタチンによる強化療法の比較試験
Effect of Two Intensive Statin Regimens on Progression of Coronary Disease
(N Engl J Med 2011; 365:2078-2087 | December 1, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1110874
【背景】
・スタチンには、心血管系イベントの発生抑制効果があることはよく知られている。
・スタチンの主な効果はLDL減少であるが、イベント発生抑制の閾値は明らかではない。
・また、スタチンによる強化療法が、冠動脈のアテローム性動脈硬化の進行を抑制し、
退縮させる可能性があることも示されている。
・しかしこれまで、スタチンによる強化療法による病変の退縮効果を検討した試験や、
最大投与量同士を直接比較する試験は、ほとんど行われていない。
【目的】
・冠動脈疾患患者に対し、2種類のスタチンによる強化療法を行うことで、
冠動脈アテローム性硬化症の進行抑制効果を比較するとともに安全性についても検討を行う。
【方法概要】
■デザイン:多施設二重盲検ランダム化比較試験
■対象:以下の条件を満たす1,039例
・18〜75歳で、冠動脈造影で20〜50%の狭窄を認めた患者
・スタチンの加療歴がなくLDL≧100mg/dl、または加療歴があってLDL≧80mg/dl
■割付
◎アトルバスタチン(リピトール)群(519名):
・リピトール40mg/日で開始し、2週間後LDL<116mg/dlかつTG<500mg/dlなら、
リピトール80mg/日に増量する。
◎ロスバスタチン(クレストール)群(520名):
・クレストール20mg/日で開始し、2週間後LDL<116mg/dlかつTG<500mg/dlなら、
リピトール40mg/日に増量する。
■観察期間:104週
■主要評価項目
・アテローム容積率(PAV:percent atheroma volume)
■副次評価項目
・総アテローム容積(TAV:total atheroma volume)
【結果概要】
・104週の治療後のLDLの値は、以下の通りであり、クレストール群が有意に低かった。
リピトール群:70.2mg/dl
クレストール群:62.6mg/dl
・104週の治療後のHDLの値は、以下の通りであり、クレストール群が有意に高かった。
リピトール群:48.6mg/dl
クレストール群:50.4mg/dl
・一方、主要評価項目であるPAVの変化率は以下の通りであり、試験開始時と比較し、
有意に減少したものの、群間での有意差はつかなかった。
リピトール群:-0.99%(95%CI)
クレストール群:-1.22%(95%CI)
・しかし、PAVについてサブ解析を行った結果、女性・HDL高値・LDL高値の群では、
リピトール群と比較して、クレストール群で有意な減少がみられた。
・また、副次評価項目であるTAVの変化量については以下の通りで、リピトール群と比較し、
クレストール群の方が減少幅が有意に大きかった。(p=0.01)
リピトール群:-4.42mm3(95%CI)
クレストール群:-6.39mm3(95%CI)
・両群ともに、約2/3の患者で冠動脈アテローム性硬化症の退縮が認められた。
・本研究の有害事象は少なかった。
・試験期間中の心筋梗塞(1.6%)、脳卒中(0.4%)の発祥において両群間で差はなかった。
【結論要旨】
・ストロングスタチンであるアトルバスタチンおよびロスバスタチンを最大量投与することで、
冠動脈アテローム性動脈硬化を有意に退縮することがわかった。
・ロスバスタチン(クレストール)群は、アトルバスタチン(リピトール)群と比較し、
LDL降下作用およびHDL上昇作用は有意に大きかったが、PAVの減少については、
両群間で差は見られなかった。
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【Team DiET の議論】
おそらく、誰もこの論文を読んで、最大容量のストロングスタチンを患者に投与しようとは
思わないのではないだろうか。
日本の基準では、LDL<120mg/dl、HDL<50mg/dlとなっており、LDLを100mg/dl以下まで
下げようと思わないのが普通である。
それを本試験では、日本の最大投与量の倍のストロングスタチンを投与し、LDL≦70mg/dlまで
下げている。
そして、そこまで下げた結果、1/3の患者で冠動脈アテローム性動脈硬化が退縮しなかったと
いうのである。
また、LDLを70mg/dl以下にしても、心血管系の有害事象は発症しており、このことは、
LDLをどれだけ下げても、効かないリスクが存在することを示しているのではないだろうか。
更に付け加えれば、日本でリピトールを20mg/日投与すると、筋症状を訴える患者も多く、
本試験のようなえげつない強化治療はとても現実的とは言えないと考える。
今回の試験は、症例数の点からも疑問が浮かび上がる内容である。
ストロングスタチン同士を比較する試験で、症例数が500ずつでは、有意差が出るとは
普通、考えにくい。
これまでの試験とは異なり、主要評価項目をイベントの発生数ではなく、アテローム容積率で
評価することは、画期的であったが、もう少し症例数の検討を行った後、試験を実施した方が
良かったのではないかと考える。
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