Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.47

診断後間もない1型糖尿病患者へのGAD65抗原投与による治療効果(Phase3)

GAD65 Antigen Therapy in Recently Diagnosed Type 1 Diabetes Mellitus
(N Engl J Med 2012; 366:433-422 | February 2, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1107096

【背景】
 ・1型糖尿病の発症には、膵ランゲルハンス氏島細胞の免疫学的な破壊に起因する
  インスリン分泌能の低下が関わっている。
 ・グルタミン酸デカルボキシラーゼ65kDアイソフォーム(GAD65)は、1型糖尿病における
  主要な自己抗原である。
 ・自己抗原の投与が、免疫学的寛容を誘導を介することにより、1型糖尿病の新たな治療となる
  可能性が提案されている。
 ・GAD65療法のphase2 studyでは、GAD65投与による臨床的な有用性は明らかとは
  ならなかった。


【目的】
 ・「アルミアジュバントGAD65(ミョウバンGAD)は、1型糖尿病を発症して間もない患者の
  β細胞機能を維持させることができる」という仮説を立て、phase3 studyとして
  その臨床効果を検討した。


【方法概要】
 ■デザイン
  ・多施設無作為二重盲検試験(欧州:63施設)

 ■対象:以下の条件を満たす10〜20歳の1型糖尿病患者334例
  ・空腹時Cペプチド>0.3ng/ml
  ・抗GAD65抗体陽性
  ・発症3か月以内

 ■割付(1:1:1の割合)
  ◎4回投与群(111名):
   ・1、30、90、270日目にミョウバンGADを投与。
  ◎2回投与群(108名):
   ・1、30日目にミョウバンGADを投与。90、270日目にプラセボを投与。
  ◎プラセボ群(115名)
   ・1、30、90、270日目にプラセボを投与。

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・ベースラインと15カ月後間での刺激時(混合食負荷後の)血清Cペプチド濃度の変化量
  ◎副次的評価項目
   ・インスリンの1日平均使用量、HbA1c値、空腹時Cペプチド濃度、低血糖発生率、
    刺激時の最高Cペプチド濃度

 ■解析
  ITT解析


【結果概要】
  ・刺激時血清Cペプチド濃度は全群で同程度低下し、15ヶ月時点でミョウバンGAD投与群と
   プラセボ群の間に 有意差はなかった。
  ・ミョウバンGAD投与群とプラセボ群のインスリン量・HbA1c値・低血糖発生率においても、
   有意な差はなかった。
  ・また有害事象においても、低頻度かつ軽度であり、3群で有意差は認められなかった。
  ・サブグループ解析を行った結果、性別・登録時のインスリン量・地域において、
   ミョウバンGAD投与群はプラセボ群と比較し、刺激時血清Cペプチドに有意な差が見られた。
   (男児・登録時のインスリン量が中程度・北欧以外の国でCペプチド濃度の低下が少なく、
    β細胞の機能が保持されていた。)
  ・また、ミョウバンGAD投与群の3月あるいは4月に初回の投与を受けた患者において、
   Cペプチド濃度の低下が少なかったことより、免疫系の季節変動・インフルエンザの流行や
   インフルエンザワクチン接種が影響している可能性が示唆された。


【結論要旨】
 ・ミョウバンGADを投与しても、15ヶ月の期間に刺激時Cペプチドの低下の有意な抑制も
  臨床転帰の有意な改善も認めなかった。


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【Team DiET の議論】
 GAD65抗原は神経細胞にも発現しており、膵β細胞得意性が低い。
 また、インスリンのように発生段階で胸腺で発現し、免疫寛容を誘導するような機序も
 見出されていない。
 事実、NODマウス等の1型糖尿病モデル動物でも発症予防効果が見出されていない。

 したがって、もとよりサロゲートマーカーとしての位置づけであるにもかかわらず、
 第3相までの臨床試験が進められ、その努力に敬意を表したい。
 残念ながら、今回の結果からGAD65抗原による1型糖尿病発症抑止の開発は断念せざるを
 得ないであろう。

 ただ考察で述べられているように、インフルエンザワクチン接種や糖尿病治療方針の多様化など、
 試験対象に不均一な部分も多かったことから、サブ解析が行われている。
 性別やインスリン投与量、地域によっては、ミョウバンGAD投与群のCペプチド濃度に有意な
 保持効果が見られた知見は、GAD65抗原の投与が何らかの作用をしていると示唆しており、
 このことがむしろ驚きであり、次につながる知見かもしれない。

 過去のメタボリッククラブで取り上げた抗CD3療法(メルマガvol.41)でも、
 有意な発症予防効果は得られておらず、あらためて「自己免疫性糖尿病との戦いは厳しい」ことを
 実感する。

 自己免疫性の1型糖尿病では、発症時には約90%のβ細胞が破壊されていると推定されており、
 さらに膵β細胞が再性能に乏しいことを考慮すると、発症直後にはもうすでに勝負は付いていると
 考えられよう。
 したがって、発症後の治療ではなく、まずは発症を予知し、発症前から介入できるような
 予知マーカーの研究も求められる。

 また、もとより再性能の乏しい膵β細胞を再生させる研究が進んでいる。
 GLP-1やガストリン(プロトンポンプ阻害薬により上昇)など膵β細胞を再生させる治療を、
 免疫療法に組み合わせることも今後のストラテジーと考える。


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