Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.49
副腎疾患について
Adrenal Disease Update 2011
(J Clin Endocrinol Metab; 96(12):3583-3591 | December 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/12/3583.abstract
この論文は、2009年12月〜2011年5月に報告された副腎疾患関連の論文を以下の項目を重視し、
ピックアップしてまとめたものです。
・病態の理解に役立つ新しい発見
・臨床上の重要な疑問に答える
・診断・治療方法に影響を与える
<原発性アルドステロン症(PA)の機序について>
【背景】
・高血圧の約8%、治療抵抗性高血圧の約20%は原発性アルドステロン症(PA)
・PAの約50%はアルドステロン産生腺腫(APA)
【結果】
・APA患者の約40%にKチャネルKCNJ5変異(L168R、G151R)を認めた。
・メンデル遺伝を示す両側副腎過形成の家系で、KCNJ5変異(T158A)を認めた。
・副腎皮質球状細胞でKCNJ5のサブタイプが変異することで、細胞内に
Na+が流入して慢性的な脱分極状態に至り、細胞増殖とアルドステロン
の過剰産生が起こる。
<心不全患者へのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の投与について>
【背景】
・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬により、重症の慢性収縮性心不全患者と
心筋梗塞後の心不全患者の生存率が改善される
【目的】
・慢性収縮性心不全の軽症例に対するエプレレノンの有効性を評価
【方法概要】
・対象はNYHA(心不全病期分類)Ⅱ度、LVEF(左室駆出率)≦35%を満たす2737例
・エプレレノン群(50mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け
【結果】
・21ヵ月時点で、プラセボ群に比し、エプレレノン群の有用性が規定の中止基準を上回り、
試験は早期中止となった。
・1次エンドポイントである心血管死または心不全による入院は、エプレレノン群18.3%、
プラセボ群では 25.9%であった(P<0.001)。
・エプレレノンにより、収縮性心不全の軽症例の死亡リスクと入院リスクが減少した。
<褐色細胞腫およびパラガングリオーマについて>
【背景】
・褐色細胞腫、パラガングリオーマは神経堤由来のクロム親和性細胞腫瘍
・褐色細胞腫、パラガングリオーマは散発性/遺伝性腫瘍症候群の一部として発症する。
・散発性と思われる褐色細胞腫の1-10%、パラガングリオーマの30-50%は、
精査で遺伝子変異が確認される。
・褐色細胞腫、パラガングリオーマの原因遺伝子にRET、VHL、NF1、SDHB、
SDHC、SDHDが知られている。
・最近、家族性/散発性褐色細胞腫においてTMEM127の生殖細胞変異が確認された。
【方法概要】
・他の遺伝子変異を除外した褐色細胞腫/パラガングリオーマ990例を調査
【結果】
・サンプルの得られた545例で、独立した20家系から19種類のTMEM127変異を検出
・TMEM127変異例は、全例褐色細胞腫(片側性13例/両側性7例)であった。
・TMEM127変異例の平均年齢は41.5歳と高く、高齢発症の褐色細胞腫において
TMEM127変異のスクリーニングが勧められる。
<副腎皮質癌用組織マーカーについて>
【背景】
・副腎腫瘤は、50歳以上の4%以上に認められる。
・副腎癌は、副腎腫瘤の5-10%を占める。
・副腎皮質腫瘍と転移性腫瘍、褐色細胞腫の鑑別が臨床上課題になる。
【目的】
・副腎腫瘍の鑑別および副腎癌の予後推定に、SF-1が有用かを検証
【結果】
・SF-1発現について、非副腎皮質腫瘍は0%、正常副腎・良性副腎皮質腫瘍は100%、
副腎癌は98%(感度98.6%、特異度100%、陽性的中率100%、陰性的中率97.3%)
・副腎癌について、SF-1高発現は予後不良と関連
<網状層機能について>
【背景】
・思春期より前に副腎性アンドロゲン分泌が始まるアドレナーキの機序は解明されていない。
・コルチゾールがアドレナーキを引き起こすと考えられてきた。
・小児期-成人期にかけて、コルチゾール産生は5倍に亢進する一方、血清コルチゾールは
生涯を通じてほぼ一定に保たれる。
・ヒト胎児副腎細胞を用いた実験で、グルココルチコイドはDHEA(アンドロゲン)分泌を
促進した。
【目的】
・ヒト副腎皮質細胞において、コルチゾール(グルココルチコイド)がDHEA分泌に
与える影響を検証
【結果】
・コルチゾール濃度に応じて、アンドロステンジオン/DHEA比が低下
・コルチゾールが3βHSD2活性の抑制を介して、DHEA分泌亢進に作用する可能性を示唆
<無症候性副腎皮質ホルモン過剰症について>
【背景】
・サブクリニカルクッシング症候群は成人の4-7%
・高血圧、肥満、高血糖、脂質異常、骨減少/骨粗鬆の原因になる。
【方法概要】
・著者らは、以下を満たす症例をsubclinical hypercortisolism(SH)
(無症候性副腎皮質ホルモン過剰症)と定義。
1. u-コルチゾール70ug/day
2. 1mg DEX負荷翌朝コルチゾール>3ug/dl
3. ACTH≦10pg/ml
・副腎偶発腫108例を、SH+/- 及び 手術療法+/-により4群に振り分け、
18か月フォローアップ
【結果】
・SHで手術群は、SHで手術なし群に比して、体重・血圧・血糖・脂質が有意に改善
・副腎偶発腫に対する手術の効果予測に内分泌学的検査が有効
・副腎偶発腫でSHを伴う例は、手術が推奨される。
<先天性副腎皮質過形成について>
【背景】
・先天性副腎皮質過形成(CAH)は最も一般的な遺伝性内分泌疾患
・そのうち95%を21水酸化酵素欠損症が占める
・酵素障害が高度な古典型は12,000出生に1人、軽度な非古典型は2,500出生に1人
・治療は、コルチゾールの補充とACTH過剰によるアンドロゲン過剰症の予防
【方法概要】
・CAH203例をフォローアップ
(199例は21水酸化酵素欠損症。そのうち138例は女性、65例は男性)
・グルココルチコイド補充のレジメンは多岐にわたる。
(ハイドロコルチゾン(26%)、プレドニン(43%)、デキサメタゾン(19%)など)
【結果】
・前駆体ホルモン値の分布が広い。
・CAH症例は、健常人と比し、低身長・肥満・拡張期血圧高値・脂質異常症・骨減少・
繁殖力低下・QOLスコア低下を示す。
・CAH症例は、一般的にHealth outcomesに乏しいため、小児期から内分泌専門医・
産婦人科医・遺伝学者精神科医・泌尿器科医・専門の看護師による集学的介入が望ましい。
<コルチゾンレダクターゼ欠損症について>
【背景】
・コルチゾンレダクターゼは、不活性型のコルチゾンを活性型のコルチゾールに変換する酵素
・これまでにH6PDH欠損による「コルチゾンレダクターゼ欠損症」は報告されていた。
【結果】
・このたび、11βHSD1欠損による「コルチゾンレダクターゼ欠損症」が報告された。
・11βHSD1遺伝子のコード領域のヘテロ接合変異(R137C、K187N)が確認されている。
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【Team DiET の議論】
副腎関連は、先日の日本内分泌学会でも多数取り上げられており、非常に話題の多い分野である。
病因となる遺伝子の発見や疾患の発現機序が少しずつではあるが明らかになっており、
進歩が著しいと感じる点も多いが、世界中の医師等が研究を続けているにも関わらず、
未だに解明できない部分も多く、内分泌学の奥深さを感じる。
サブクリニカルクッシング症候群(SCCS)の治療についても手探りな状態が続いており、
今回の報告では無症候性副腎皮質ホルモン過剰症(SH)であるなら、手術を推奨との事だが、
日本では腺腫の手術適応については議論中であり、また、SCCSの診断基準についても
デキサメタゾン抑制試験でのコルチゾールカットオフ値や長期予後についての指針も
明確になっていない。
同様に先天性副腎皮質過形成(CAH)の治療についても試行錯誤が続いており、ひと通りの
治療のガイドラインはあるものの最適化されていないため、予後が改善されていないのが
現状である。
だからといって医学が停滞している訳ではなく、褐色細胞腫のようにこの2〜3年で
原因遺伝子が次々に見つかり、遺伝的なバックグラウンドが急速に明らかになる疾患もあり、
医学は日々着実に進歩していると感じている。
Updateのようなボリュームのある論文は個人で読もうとすると負担が大きく、
読む機会が少なくなりがちだが、最新の報告を入手するには最適であり、
今後も抄読会という場で読み進めていきたいと考えている。
しかし、J Clin Endocrinol Metabに掲載されたUpdateだけあって、同誌の論文が多く、
少し偏った内容になっている点には、注意しておかなければならない。
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