Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.5
背部痛と高カルシウム血症を呈する4歳の男児のケース記録
Case 4-2011: A 4-Year-Old Boy with Back Pain and Hypercalcemia
( N Engl J Med 2011; 364:552-562 | February 10, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcpc1011318
【症例】
4歳 男児
【主訴】背部痛
【家族歴】父 腎機能障害あり 小児癌の家族歴なし
【既往歴】なし、正期産
【薬物・アレルギー】なし
【内服】なし
【現病歴】
入院28日前~ 便秘、硬い便があった。
入院7日前 階段を1段落ち、下背部~臀部に痛みを自覚。
アセトアミノフェンで除痛できず。
入院3日前 2歩しか歩けなくなり、救急部を受診。Xpで臀部の骨に異常なし。
アセトアミノフェン処方され帰宅。便通あり。
入院2日前 歩けない、立てない、座っているのに助けが必要になった。
誰も叫んでいないのに、叫ばないよう家族に訴えた。
入院1日前 一過性に37.8℃の発熱あり、経口摂取と尿量低下した。
入院当日 ベッドから動けなくなり、救急受診し、入院した。
【入院時身体所見】
HR:113、血圧:97/52 mmHg、体温 37.2℃
RR 26 /min、SpO2 100% (room air)、体重 15.9 kg
腹部:平坦・軟、圧痛 (-)、肝・脾に腫大 (-)、腫瘤 (-)
腰仙部領域:骨と傍脊柱筋群の上に圧痛あり(左>右)、坐位・足の屈曲で増強
下肢深部腱反射:両側で亢進、Babinski (-)
その他の身体所見、神経学的所見に異常なし
【入院後経過】
入院当日 腰椎造影MRI 異常なし
アンギオテンシン変換酵素 正常値
グリセリン座薬→軟便排出
腹部エコーで腎・膀胱に異常なし
≪神経内科医の診察≫
・右背部にカフェオレ斑 (25×10 mm) 、左大腿部に色素の薄い箇所あり
・生まれつき右肘の伸展障害あり
・深部腱反射は亢進し、両側のクローヌスが右優位にみられた
・左Babinski (±)
・失調 (-), 最小の助けでまっすぐ座れる, 歩行は背部の痛みのため拒否
・その他の神経学的所見に異常なし
≪レントゲン所見≫
・腰仙部脊椎がびまん性に骨量減少、
・Th11とL1の前部がわずかに楔状になり、L4がつぶれている
・仙骨は腸管ガスで評価困難
入院1日後 無症候性の徐脈 (HR <60)あり、心電図にその他の異常なし。
ケトロラック・トロメタミン (酸性非ステロイド性抗炎症薬)が痛みを改善した
入院3日後 頭部MRIで異常なし
脊椎~骨盤MRIよりT1強調で椎体がLow
入院5日後 診断
【治療についての留意点】
・背中の痛みに対する治療が必要であること
・高Ca血症は多臓器に影響を与えており、早急な治療が必要であること
・これらの問題を統合して説明できる病態を見つけること
【高Ca血症について】
・高Ca血症は小児では多くなく、原因は多様
・成人の主な原因としては、副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍で90%
・成人では悪性腫瘍患者の20~30%に高Ca血症がみられるが、小児ではわずか0.4~0.7%
・検査項目:尿中Ca排泄、PTH、P、Vit.D、PTHrPなど
・本症例での入院時の血中Ca濃度は15.5mg/dlであり、便秘、食欲不振、脱水、腹痛、多尿を認め、
経過で幻聴、傾眠も認めており、早急な治療が必要であった。
【小児の高Ca血症の原因について】
・尿細管でのCa再吸収増加によるCa排泄低下性の高Ca血症
⇒本症例では、尿中Ca排泄も増加していた
・原発性副甲状腺機能亢進症(10歳未満の高Ca血症の0.5%にも満たない)
⇒本症例では、PTHが抑制されていた
・サイアザイドやその他の高Ca血症の原因となる薬剤(リチウム、Vit.A、Vit.D)の使用
⇒本症例では、内服はなく血中Vit.D値も高くなかった
・肉芽腫性疾患
⇒本症例では、1,25(OH)2D値も正常であった
・甲状腺機能亢進症、長期の不動化(>2 weeks)
⇒本症例では、甲状腺機能正常で、ベッド上にいたのは1週間であった。
・悪性腫瘍(小児には稀)
⇒本症例では、PTHrPは検出感度以下であった
以上の結果より、本症例の高Ca血症の原因は、
オカルト癌または可能性は低いが椎体圧迫骨折の痛みによる不動化が考えられた
【背部痛の原因について】
・脛骨骨折
⇒触診と外転での痛みが特徴であるが、本症例では痛みは持続的
・Xpに写らない骨端軟骨の骨折
⇒成長板上の触診と骨折領域の腫脹が特徴であるが、本症例で痛みは背部のみ
以上の結果より、骨の痛みの原因は、新生物によるものと考えられた。
小児の白血病では20%で骨の痛みを訴え、発熱、顔面蒼白、リンパ節腫大、
肝脾腫大、痣ができやすいことがあげられ、本症例でもみられた。
また、脊髄と骨盤のMRIより、骨髄のびまん性の変化がみられ、
白血病など急性期の疾患の可能性が高いと考えられた。
【白血病について】
高Ca血症は、横紋筋肉腫、肝芽腫、脳腫瘍、神経芽細胞腫、リンパ腫、白血病などの
血液疾患でみられるが、急性白血病の0.3~0.4%にもみられる。
急性白血病による骨の痛みは高Ca血症よりよくみられ、割合としてはALL>AML、小児>成人である。
ALLでまれに、高Ca血症と顕著な骨の痛みを有し、血算には明らかな異常がないことがある。
本症例では、ALLを疑われた。
【本症例について】
入院時の血算では中等度の貧血を認めるのみで、ほぼ正常であった。
しかし5日後の採血では、WBC8300→4300、ヘマトクリット31→25%と減少がみられ、
翌日には末梢血で少数のリンパ芽球もみられた。
これらの変化は急性白血病の自然経過を示している。
診断時の年齢(1~10歳)と白血球数が少ないことから、通常の白血病のリスクを持っていたと考えられる。
---------------------------------------------
【Team DiET の議論】
本症例では様々な検査を実施し、白血病の可能性を示唆されたが、
入院時に行われた血液検査で既にある程度の目星がついたものと考える。
高Ca血症では血中のPの動態に注目すべきである。
PTH作用では血中のCa濃度は高くなり、P濃度は低くなるが、
溶骨が起こると血中のCa濃度・P濃度が共に高くなる。
本症例では、入院時の血中のP濃度は5.7mg/dlであり、
悪性腫瘍でもPTHrPを産生するタイプのものではなく、
骨破壊がおこるタイプのものではないかと考えることができる。
また今回の症例では、入院時のMRIでは正常と解釈されたが、
小児を専門とする放射線科医によって異常が発見された経緯があり、
検査結果が症状をうまく説明できない場合には、他の医師らとの連携も大切である。
メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。