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Team DiET Colloquium vol.52

高齢の女性での骨密度測定をする間隔と骨粗鬆症への推移

Bone-Density Testing Interval and Transition to Osteoporosis
in Older Women
(N Engl J Med 2012; 366:225-233 | January 19, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1107142

【背景】
 ・現在の骨粗鬆症管理ガイドラインでは、二重エネルギーX線吸収法(DXA法)を用いた
  骨塩密度(BMD)検査を65歳以上の女性に勧めている。
 ・しかし、長期的なコホート研究のデータに基づく、検査間隔については示されていない。


【目的】
 ・長期的なコホート研究に基づき、骨粗鬆症発症率について調べ、高齢女性における
  骨密度(BMD)検査の間隔について調査を行う。


【方法概要】
 ■対象:以下の条件を満たす67歳以上の女性4,957人(1986〜1988に開始)
  ・大腿骨近位部骨折または臨床症状を伴う脊椎骨折の既往なし
  ・骨粗鬆症の治療歴なし
  ・BMD検査での結果、正常(大腿骨頸部と股関節のTスコア:-1.00以上)または
   骨減少症(Tスコア:-1.01~ -2.49)と診断された方
    (※Tスコア:国際的に使用されている骨粗鬆症の診断基準に用いられる値)
    (※骨粗鬆症のTスコアは -2.5以下(日本でいうところのYAM70%未満))

 ■方法:ベースラインのBMD検査値により、以下の4群に分類した。
   ・正常群     (Tスコア:-1.00以上)
   ・軽度骨減少症群 (Tスコア:-1.01~ -1.49)
   ・中等度骨減少症群(Tスコア:-1.50~ -1.99)
   ・重度骨減少症群 (Tスコア:-2.00~ -2.49)

 ■フォローアップ期間:15年
   ・2年(1989-1990年)
   ・6年(1992-1994年)
   ・8年(1995-1996年)
   ・10年(1997-1999年)
   ・16年(2002-2004年)

 ■評価項目
  ・正常または骨減少症から骨粗鬆症に移行するリスクを解析。
  ・なお骨粗鬆症発症への進行期間については、股関節骨折あるいは臨床的脊椎骨折の発生が
   10%未満である期間とした。
  ・また、ビスホスホネート・カルシトニン・ラロキシフェンのいずれかによる治療の開始、
   股関節骨折あるいは臨床的脊椎骨折の発生を競合リスクとした。


【結果概要】
  ・フォローアップ期間に骨粗鬆症を発症した人数は以下の通りであった。
      正常群(1255人)     :10人(0.8%)
      軽度骨減少症群(1386人) :64人(4.6%)
      中等度骨減少症群(1478人):309人(20.9%)
      重度骨減少症群(1351人) :841人(62.3%)

  ・骨粗鬆症の発症を10%未満で発見できるBMD検査の間隔の推定値は,以下の通りであった。
      正常群     :16.8年
      軽度骨減少症群 :17.3年
      中等度骨減少症群:4.7年
      重度骨減少症群 :1.1年

  ・骨減少症の患者においては、軽度〜重度を問わず、年をとるごとに骨粗鬆症を発症する
   リスクが高くなり、また、中度〜重度の骨減少症患者については、BMIが高くなる程、
   骨粗鬆症を発症するリスクが高くなった。
  ・エストロゲンの使用については、「過去に使用経験がある」または「使用経験なし」と比し、
   「現在使用中」の方が骨粗鬆症を発症するリスクが高くなった。


【結論要旨】
 ・高齢・閉経後女性におけるBMD検査の再評価期間は、ベースラインとなる初回のBMD検査値が
  重要な要素となっており、以下の通りであった。
   正常または軽度骨減少症(Tスコア -1.50以上):15年間隔
   中等度骨減少症(Tスコア -1.50~-1.99)   :5年間隔
   重度骨減少症(Tスコア -2.00~-2.49)    :1年間隔

 ・これらの間隔でスクリーニングを行うことで、骨粗鬆症の発症が10%未満のうちに発見できる
  ことが示された。


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【Team DiET の議論】
 日本でも骨密度の測定間隔について明確なガイドラインはありませんが、
 検診では40歳以上の女性を対象に5年間隔で骨密度測定を行っています。
 そのため、本論文の「正常または軽度の骨減少症の患者のスクリーニングは15年間隔でよい」
 という結果に驚きました。

 本論文で注意したいのが、対象者の背景です。
 骨粗鬆症の既往歴についての除外はあったものの、その他の罹病歴や骨粗鬆症治療薬以外の
 使用薬剤については一切触れておらず、層別解析もされていません。

 これまでの研究で、糖尿病患者の骨折頻度は約2倍に増加することが明らかとなっており、
 糖尿病治療薬として使用されているチアゾリジン系薬剤(アクトス)が骨折リスクを高めることも
 報告されています。
 今や国民病と化した糖尿病患者についてのサブ解析が求められます。

 また、サプリメントについての詳細が、明らかになっていないことにも注意が必要です。
 今年3月「Nature Medicine」に掲載されたマウスでの研究論文は、「ビタミンEの過剰摂取が
 破骨細胞を活性化する」可能性を報告しています。
 米国では全人口の10%以上の人が服用していると言われるビタミンEが、今回の結果に
 関与していないのかが気になるところです。

 とはいえ、これまで全く明らかになっていなかった骨密度の測定間隔が明らかにされたことは
 大きな進歩であると思います。
 今後の課題は「骨減少症の予知」や「骨減少症と診断されてからの治療法」を明確にし、
 骨粗鬆症の発症を抑えるガイドラインを確立することであると考えます。


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