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Team DiET Colloquium vol.56

肥満を伴う2型糖尿病患者を対象とした内科的治療と外科的治療の有効性比較検討試験≪STAMPEDE試験≫

Bariatric Surgery versus Intensive Medical Therapy in Obese
Patients with Diabetes

(N Engl J Med 2012; 366:1567-1576 | April 26, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1200225


【背景】
 ・肥満外科手術により、重度の肥満を有する2型糖尿病患者の血糖管理が
  速やかに改善し得ることが報告されている。

 ・中等度の肥満を有する2型糖尿病患者に対して、肥満外科手術と集中的な内科的治療の
  効果を比較した無作為化比較対照研究はほとんどない。

【目的】
 ・肥満を伴う2型糖尿病患者に対する集中的な内科的治療と外科的治療の効果を
  HbA1cの改善率の平均で評価した(STAMPEDE試験)


【方法概要】
 ■デザイン:無作為化非盲検単一施設試験

 ■対象:以下の条件を満たす肥満2型糖尿病患者:150名
  ・20~60歳
  ・HbA1c:7%以上
  ・BMI 27~43kg/㎡

 ■割付(1:1:1の割合)
  全ての患者に対して、ADA(American Diabetes Assosiation)のガイドラインに従って
  生活スタイルのカウンセリング・体重管理・頻回の血糖測定・インクレチンアナログ等の
  薬物治療を行った。また、脂質異常症・高血圧症に対しても、ADAのガイドラインに従って
  治療を受けた(具体的な目標値はsBP<130・dBP<80・LDL<100)。

   ◎内科的治療群(50名)
    HbA1cが6.0%以下になるよう薬物の投与量を変更
   ◎胃バイパス術群(50名)
    腹腔鏡下で胃を20mLの小袋に分け、小腸と吻合する
   ◎スリーブ状胃切除術群(50名)
    腹腔鏡下で胃を75〜80%切り取ってバナナ型にする

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・HbA1cが12カ月経過した時点で6%以下となった割合
    (糖尿病に対する薬物治療の有無に分けて評価)

  ◎副次的評価項目
   ・空腹時血糖・空腹時インスリン・脂質・高感度CRP・
    インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)・体重減少・血圧・有害事象・合併症・薬物治療変更


【結果概要】
  ・被験者150例のうち、140例(93%)が12ヵ月間の追跡調査を完了した。
  ・HbA1cが12カ月経過した時点で6%以下となった割合は、以下の結果であり、
   内科的治療群に比し、外科的治療群で有意に多かった(外科的治療群間の有意差なし)。
     ・内科的治療群    :12%
     ・胃バイパス術群   :42%
     ・スリーブ状胃切除術群:37%

  ・血糖コントロールは全ての群で改善し、平均のHbA1cは以下の結果となり、
   内科的治療群に比し、外科的治療群で有意に改善した。
     ・内科的治療群    :7.5±1.8%
     ・胃バイパス術群   :6.4±0.9%
     ・スリーブ状胃切除術群:6.6±1.0%

  ・空腹時血糖値についても、内科的治療群に比し、外科的治療群で有意に改善した。
  ・糖尿病治療薬については、内科的治療群に比し、外科的治療群で有意に減少した。
  ・また、LDL-C・T-Chol・血圧については、3群間で差はなかったが、降圧薬・脂質低下薬の
   使用数については、内科的治療群で増加したが、外科科的治療群では減少した。

  ・また、体重減少についても以下の結果であり、内科的治療群に比し、外科的治療群で
   有意に減少した。
     ・内科的治療群    :- 5.4±8.0kg
     ・胃バイパス術群   :-29.4±9.0kg
     ・スリーブ状胃切除術群:-25.1±8.5kg

  ・有害事象としては、外科的治療群の4例が再手術を受けていたが、全群で死亡や命に
   関わる合併症の発症や低血糖・栄養不良などは見られなかった。


【結論要旨】
  ・血糖コントロール不良の糖尿病患者の治療として、肥満外科手術は有効な方法であり、
   糖尿病薬を必要としなくなった症例や、著しく内服薬の減量が可能であった症例を認めた。

  ・加えて、外科的手術を受けた患者では降圧薬や脂質異常症改善薬の減量が可能となり、
   心血管系リスクが改善した。


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【Team DiET の議論】
 極度の肥満を伴う2型糖尿病患者に対し、内科的治療よりも外科的治療の方が優れていたという
 今回の結論について、内科医的には手放しで喜べるとは言えませんが、外科的治療の有効性が
 日本人についても当てはまるかどうかを検討していく段階に入ったのかもしれません。

 日本で保険適用となっている肥満症手術はなく、たとえ糖尿病治療を目的に含んでいても
 実費での手術となります(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の自己負担額:約50万円、
 ルーワイ胃バイパス術の自己負担額:約150万円)。ですが近年では、スリーブ状胃切除術が
 先進医学として認められ、糖尿病外科サミットが行われるなど、内科と外科の枠を超えた
 糖尿病治療が始まっています。

 糖尿病患者に対する肥満症手術は、単に体重を減少させたことによる二次的効果というよりも、
 インクレチンが分泌されることによる血糖改善であると報告されています。今回の結果でも、
 体重減少より先に血糖コントロールが改善されており、肥満を伴う糖尿病患者への肥満症手術は、
 体重減少以上の効果を発揮しており、血糖改善の更なる解明および長期安全性が確証されれば、
 糖尿病患者への外科的手術の適用が認められる可能性も高くなります。

 ですが、手術は非常に侵襲的であるため、手術適合をなる患者の診断基準を確立しないことには
 取り返しのつかない結果になりかねません。糖尿病治療に外科的治療が導入するにあたっては、
 物議を醸すかもしれませんが、治療の選択肢が広がることで、患者一人ひとりにより最善の治療が
 行えると考えれば、外科的治療の導入を喜ばない医師はいないと思います。



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