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Team DiET Colloquium vol.57

クッシング病に対するpasireotide(パシレオチド)の12ヶ月投与試験≪第3相試験≫

A 12-Month Phase 3 Study of Pasireotide in Cushing's Disease
(N Engl J Med 2012; 366:914-924 | March 8, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1105743

【背景】
 ・クッシング病は、20~50歳の女性に好発し、下垂体腺腫(ACTH産生腫瘍)による
  コルチゾールの過剰分泌を引き起こし、満月様顔貌・高血圧などの症状を呈する疾患である。
 ・また、クッシング病は、高い障害発生率と死亡率に関連している。

 ・治療としては、Hardy手術(経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術)や放射線療法が行われ、
  手術不能例については、ステロイド合成阻害剤(ミトタンなど)やソマトスタチンアナログ
  (オクトレオチド)の投与が行われる。
 ・次世代ソマトスタチンアナログとして開発されたパシレオチド(pasireotide)は、
  オクトレオチドよりソマトスタチンに近い形での作用が期待できるとされている。
  (SST1,SST2,SST3,SST5に高い親和性を持ち、効果を発揮する)

  ※2012年4月に欧州では、パシレオチドがクッシング病治療薬として、
   はじめて承認されたが、日本ではまだ承認されていない。


【目的】
 ・クッシング病患者を対象にパシレオチドを12ヶ月間投与し、有効性と安全性を検討した。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設無作為二重盲検試験(18カ国62拠点)

 ■対象:以下の条件を満たすクッシング病患者:162名
  ・クッシング病と診断された18歳以上の患者
  ・尿中コルチゾール値が正常範囲上限の1.5倍以上

 ■割付(1:1の割合)
   ◎600μg投与群(82名)
    パシレオチド600μgを1日2回皮下投与
   ◎900μg投与群(80名)
    パシレオチド900μgを1日2回皮下投与
  ※両群共、3ヶ月が経過した時点で、尿中コルチゾール値が正常範囲上限の2倍を超えておらず
   ベースライン値を超えていない患者には、初期投与量を継続し、
   それ以外であった場合、1日2回の投与量を更に300μgずつ増量した。

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・投与量を増量することなく、6ヵ月時点での尿中コルチゾール値が
    正常範囲の上限以下であること。

   ※なお、6ヶ月目以降は非盲検試験とし,12ヶ月間治験を継続した。


【結果概要】
  ・投与量を増量することなく、6ヵ月時点での尿中コルチゾール値が正常範囲の上限以下
   となった割合(主要評価項目に達した割合)は、以下の通りであった。
     ・600μg投与群:15%
     ・900μg投与群:26%

  ・尿中コルチゾール値の中央値は、両群共2ヵ月までに約50%低下し、その後安定した。
  ・尿中コルチゾール値が正常値に達した患者の割合は、ベースライン値が正常範囲上限の5倍を
   超えていた患者より、超えていない患者の方が多かった。

  ・体重、血圧、LDL-C値は著しく改善した。

  ・162例中118例に高血糖関連の有害事象がみられたが、他のソマトスタチンアナログの
   有害事象と同等であった。
  ・血糖値およびHbA1cは治療開始後すぐに上昇し、162例中74例で血糖降下療法が
   開始された。


【結論要旨】
  ・パシレオチドを投与したクッシング病患者のコルチゾール値が有意に低下した。
  ・パシレオチドのACTH産生下垂体腺腫に対する標的治療薬としての可能性が支持される。


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【Team DiET の議論】
  今回の結果をサラッと見てしまうと、全例で尿中コルチゾールが低下したように
 見えてしまいますが、主要評価項目に達した割合は、両群共3割を超えておらず、また、
 尿中コルチゾールがベースラインより50%以上低下した割合も38%で半数に達していません。
 「決して患者全てに効く治療薬ではない」ということを正しく理解する必要があります。

 また、どういった背景の患者にパシレオチドが効き、どういった背景の患者には効かないのか
 という層別解析も求められます。
 効果があるか判らないパシレオチドを数ヶ月間投与し、効果がなければ別の治療法を考えると
 いうのも手段の1つかもしれませんが、患者からしてみれば、高額な治療薬代を支払い、
 毎日2回の注射を行ったにもかかわらず、少しも効果が得られなければ、それは治療ではなく、
 負担でしかありません。
 また、逆に効果があったとしても、今後、長期的な投与を考えると高額な治療費は、
 生活を圧迫しかねません。
 今回のパシレオチドの価格は判りませんが、オクトレオチドのように1本20万円となると、
 医療側も患者に勧めにくいのではないでしょうか。

 尿中コルチゾールの結果だけ見れば、600μg群でも900μg群でも、効果に差はなく、
 分泌抑制については投与量で変わらないことが示されましたが、腫瘍サイズをみると、
 600μg群では-9.1%の減少に留まったのに対し、900μg群では-43.8%の減少でした。
 ホルモン分泌抑制効果とサイズ縮小効果に乖離がある理由に興味が持たれます。

 73%と高い割合で、高血糖関連の有害事象が発生することに留意する必要があります。
 また、他にも胆石症の有害事象が30%発生しています。
 原因は、胆嚢の収縮能が落ちたために析出したと考えられますが、1年の投与期間中で胆石症が
 発症したのは驚きです。
 日本での承認は未定ですが、欧州では4月に承認されたので、今後の動向に注目が高まります。


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