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Team DiET Colloquium vol.62

血糖コントロールにおけるメトホルミン治療効果および投与量についての検討

Quantifying the effect of metformin treatment and dose
on glycemic control
(Diabetes Care, Volume 35(2), Pages 446 - 464, February 2012)

http://care.diabetesjournals.org/content/35/2/446.full.pdf

【背景】
 ・欧米では、2型糖尿病患者に対してメトホルミンが最も一般的に処方されており、
  また第一選択薬となっている。
 ・メトホルミンによる血糖の低下作用は、心血管イベントの低下と関連があると
  報告されている。
 ・メトホルミンによるHbA1cの低下は、1〜2%と報告されているが、最近のレビューでは、
  血糖降下作用は、より低いとの報告もある。


【目的】
 ・ランダム化比較試験のメタ解析を行い、以下の検討を行う。
   ◎HbA1cの低下を定量化する
   ◎メトホルミン単独治療と併用治療における効果の違いを明らかにする
   ◎メトホルミンの低用量群と高用量群におけるHbA1cの低下について検討する


【方法概要】
 ■デザイン:1950年~2010年6月までのMEDLINE、EMBASE、Cochraneデータベースから
       論文を抽出し、メタ解析を施行

 ■対象:以下の条件を満たすランダム化比較試験:35試験(7,960名)
   ・ランダム化比較試験
   ・糖尿病患者を対象としている
   ・最低12週間のフォローアップ期間
   ・メトホルミン単剤もしくは併用(add on)による治療
   ・メトホルミン単剤の場合、対照群はプラセボ
   ・メトホルミン用量が、試験内および試験期間中は固定
   ・併用の場合、他の糖尿病薬の用量も固定

 ■メトホルミン用量の基準
   ◎低用量:1000㎎~1500㎎/day
   ◎高用量:1500㎎/day以上

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・ベースラインと試験終了時におけるHbA1cの変化
   ・全ての有害事象
   ・消化器系の有害事象(下痢、腹痛など)


【結果概要】
  ・メタ解析の対象となった比較試験は以下の通りであった。
     Ⅰ)メトホルミン単剤群         v.s.プラセボ群:試験数15個(2424人)
     Ⅱ)経口血糖降下薬+メトホルミン併用群 v.s.非併用群 :試験数12個(4511人)
     Ⅲ)インスリン  +メトホルミン併用群 v.s.非併用群 :試験数13個(1025人)
     Ⅳ)メトホルミン低用量群       v.s.高用量群 :試験数13個(1025人)

  ・各比較試験の結果は以下の通りであった。
     Ⅰ)メトホルミン単独群 v.s.プラセボ群(2型糖尿病患者が対象)
       ・HbA1cはプラセボ群と比し、1.12%低下した(p<0.00001)。
       ・なお、24週以上継続した試験に限ると、HbA1cは1.19%低下した。

     Ⅱ)経口血糖降下薬+メトホルミン併用群 v.s.非併用群(2型糖尿病患者が対象)
       ・HbA1cは非併用群と比し、0.95%低下した(p<0.00001)。
       ・なお、24週以上継続した試験に限ると、HbA1cは0.94%低下した。

     Ⅲ)インスリン+メトホルミン併用群 v.s.非併用群
       ・HbA1cは非併用群と比し、0.60%低下した(p<0.0001)。
       ・なお、2型糖尿病患者を対象とした試験に限ると、HbA1cは非併用群と比し、
        0.83%低下した(p=0.000)。
       ・また、1型糖尿病患者を対象とした試験に限ると、HbA1cに差は見られなかった。

     Ⅳ)メトホルミン低用量群 v.s.高用量群
       ・HbA1cは低用量群と比し、0.26%低下した(p<0.0001)。

  ・有害事象については、下痢・嘔気・嘔吐・膨満感・腹痛などの消化器症状が多かった。
  ・その他、低血糖・めまい・頭痛・尿路感染症・低血圧・咳・動悸があった。

  ・有害事象については、メトホルミン単独群はプラセボ群と比し、有意に多かったが、
   併用群(経口薬およびインスリン)では、非併用群と比し、有意な差は見られなかった。
  ・また、用量による有害事象についても、有意な差は見られなかった。

  ・特に胃の有害事象(下痢・腹痛)が多く見られた。
  ・また、用量による胃の有害事象については、高用量群で多い傾向がみられたが、
   統計学的な有意差はみられなかった。p=0.08)


【結論要旨】
  ・2型糖尿病患者では、インスリンを含むいかなる治療を受けていても、メトホルミンにより
   HbA1cを低下させることを証明した。
  ・メトホルミンのHbA1c低下効果は、用量依存性であった。
  ・最も効果的なメトホルミンの最大投与量については、有害事象も考慮した更なる研究が
   必要である。


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【Team DiET の議論】
 今回の解析結果は、メトホルミン投与の有効性をベースラインからのHbA1c低下ではなく、
 2群間(投与群v.s.非投与群)での差で論じていることに注目してもらいたいと思います。
 通常、糖尿病系薬剤の有効性は、ベースラインのHbA1cに依存して変動するため、
 ベースラインのHbA1cが高いほど、HbA1cの低下が望めます。
 しかし、今回は単純に2群間の差としてHbA1cの有効性を見ているため、経口薬やインスリンに
 メトホルミンを併用しても、HbA1cは大きく変動しないと思っていたのですが、共に0.8%以上も
 下がったのには驚きました。

 では逆に、なぜメトホルミン単剤と併用ではHbA1cの変動に差が生じるかを考えると、
 経口薬やインスリンの投与では作用機序がどこかでタブってしまうため、メトホルミン本来の
 有効性を発揮できない可能性が示唆されます。
 この原因を追究していくことにより、2型糖尿病患者ではインスリンにメトホルミンを併用すると
 HbA1cが有意差をもって低下するのに対し、1型糖尿病患者ではメトホルミン併用でもHbA1cに
 差が生じなかった理由も解明できるのではないでしょうか。

 肥満2型糖尿病患者を対象としたMulticenter Metformin Study(1995)における
 メトホルミンの血糖改善効果の解析から、「メトホルミンはBMIが高い方が効きやすい」と
 いう印象がもたれていました。
 しかし、日本で行われたメトグルコのBMI層別有効性比較試験は、メトグルコの有効性は
 BMIに依存しないことを示しました。
 本論文では層別解析は行われていませんが、抽出論文をもとに、民族別・BMI別などで分類し、  
 追加解析が行われることを期待したいと思います。


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