Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.65
メトホルミンでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者を対象としたエキセナチド(バイエッタ)とグリメピリド(アマリール)の追加投与有効性比較検討試験≪EUREXA試験≫
Exenatide twice daily versus glimepiride for prevention of glycaemic
deterioration in patients with type 2 diabetes with metformin failure
(EUREXA): an open-label, randomised controlled trial
(The Lancet, Volume 379, Issue 9833, Pages 2270 - 2278, 16 June 2012)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60479-6/abstract [ch0]
【背景】
・2型糖尿病患者の血糖コントロールは徐々に悪化する。
・第一選択薬であるメトホルミンで血糖コントロールが不十分な場合の第2選択薬については、
エビデンスは充分ではないため、論争の的になっている。
【目的】
・メトホルミンで血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者に対するエキセナチドと
グリメピリドの追加投与の効果を比較する。
【方法概要】
■デザイン:多施設共同無作為化オープンラベル試験(14カ国、128施設)
■対象:18〜85歳の男女で、以下の基準を満たす2型糖尿病患者:1,029人
・メトホルミン単剤治療
・最大耐用量のメトホルミンを安定使用して、HbA1cが6.5%〜9.0%
・25≦BMI<40
■割付(1:1に割付)
●両群ともメトホルミンを併用(投与量は継続)
バイエッタ、アマリールの用量調整は、担当医の判断による。
◎エキセナチド(バイエッタ)群(515人)
当初4週間は5μgを朝夕食前1時間以内に1日2回投与
それ以降は10μgを朝夕食前1時間以内に1日2回投与
吐気が1週間以上持続したら5μgに減量
◎グリメピリド(アマリール)群(514人)
朝食直前1mg/日から開始
4週間毎に投与量を調節
■評価項目
◎主要評価項目
・治療失敗:血糖コントロールが不十分で代替治療が必要になるまでの期間
(治療3か月以降でHbA1c>9.0%、6か月以降は2回連続HbA1c>7.0%)
◎副次的評価項目
・βcell機能、体重、低血糖、心血管リスクのサロゲートマーカー(血圧、脈拍)
【結果概要】
・分析対象は、以下を満たす977人(バイエッタ群490人、グリメピリド群487人)であった。
割り付け薬を1回以上使用
ベースラインのHbA1cおよび試験期間中に少なくとも1回のHbA1cを測定
・これらの患者に用いられた薬剤は以下の通りであった。
メトホルミン:2000mg/日(中央値)
バイエッタ :17.35μg/日(平均)
アマリール :2.01mg/日(平均)
・主要評価項目(治療失敗)に達した割合は以下の通りであり、アマリールに対する
バイエッタの非劣性が確認された。また、バイエッタの優越性も示された。
バイエッタ群:203人(41%)
アマリール群:262人(54%)
・なお、試験終了まで主要評価項目に達しなかった治療成功例は、以下の通りであった。
バイエッタ群:138人(28%)
アマリール群:124人(25%)
・ベースライン時のHbA1cで主要評価項目(治療失敗)に達した割合を解析した結果、
両群共、ベースライン時のHbA1c値が高い程、治療失敗リスクは高くなった。
・また、治療失敗のリスクは、アマリール群と比し、バイエッタ群で低かった。
・HbA1c値は両群共に低下し、ベースラインおよび試験終了時は以下の通りであった。
バイエッタ群:7.45%→7.08%
アマリール群:7.42%→7.22%
・HbA1c<7%の達成者は以下の通りであり、バイエッタ群で有意に多かった。
バイエッタ群:218人(44%)
アマリール群:150人(31%)
・なお、HbA1c≦6.5%の達成者は以下の通りであり、バイエッタ群で有意に多かった。
バイエッタ群:140人(29%)
アマリール群: 87人(18%)
・収縮期血圧は、バイエッタ群では有意に低下したが、アマリール群では低下しなかった。
・体重の増減は以下の通りであり、バイエッタ群で有意に低下した。
バイエッタ群:-3.32kg
アマリール群:+1.15kg
・あらゆる理由による治療中止はバイエッタ群に多く、また有害事象による中止も
バイエッタ群で多かった。
・バイエッタ群で治療中止に結びついた有害事象は、主に消化管イベントであった。
・ただし、有害事象による治療中止は、最初の6カ月間はバイエッタ群で有意に多かったが、
それ以降は同等であった。
・低血糖は昼夜を問わず、バイエッタ群が有意に少なかった。
【結論要旨】
・メトホルミンで血糖コントロール不十分な患者に対して、バイエッタを追加することで
アマリールと比し、血糖悪化を防ぎ、低血糖の頻度を抑えることができた。
・バイエッタの頻度の多い副作用としては消化器症状があり、これが治療中断の最も多い
理由であったが、症状が現れたのは最初の6か月だけであった。
・メトホルミン単独で血糖コントロール不良の2型糖尿病患者の第二選択薬としては、
アマリールよりバイエッタの方が有用である。
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【Team DiET の議論】
今回の試験の対象者が血糖コントロール不良な患者とされていながらも、HbA1cの設定が
6.5%〜9.0%となっており、HbA1cが6.5%でもコントロール不良とされている部分に
いささか納得できませんが、2型糖尿病患者の血糖コントロールは徐々に悪化することが
背景にあり、今後の長期的な観察も踏まえての被験者の抽出であったと理解したいと思います。
Lansetでは、第二選択薬についての論争が多く報告されていますが、未だ決定打となる
報告はされていません。
今回の結果も一見、バイエッタ群の方が有意に見えますが、試験開始から6ヶ月目までは
ほぼ同等にHbA1cを低下させており、瞬間的な治療効果には差がありません。
またその後、HbA1cが徐々に上昇をたどる傾向は同じで、アマリールが二次無効のため
3〜4年で治療効果がなくなるのと同様に、バイエッタも6〜7年で治療効果がなくなる可能性を
示唆しています。
今回の結果では、血糖コントロールも勝り、低血糖も少なく、消化管イベントも6ヶ月で収まる
バイエッタに軍配が上がるのかもしれませんが、長期な使用を考えるとコスト面が重く
のしかかるのも事実ではないでしょうか。
また自己注射を嫌がる患者も多く、一概にバイエッタを第二選択薬とするのは、難しいのかも
しれません。
そのため、まずは二次無効になるまでアマリールを使用し、その後ビクトーザに移行するという
アルゴリズムも可能ではないかと考えます。
また、本試験開始時はDPP-4阻害薬の使用ができなかったため、ビクトーザとバイエッタの
一騎打ちとなってしまいましたが、DPP-4阻害薬が認可された今、3剤で比較試験を行った場合、
どのような結果となり、DPP-4阻害薬が第二選択薬にどのように割り込んでくるのか楽しみです。
しかし、欧米ではDPP-4阻害薬は、SU薬より血糖降下作用が劣るため、あまり推奨されていない
現状があります。
日本では持続的にインスリン分泌を促し、膵臓を疲弊させるSU薬より、食後にターゲットを
絞りインスリン分泌を促すDPP-4阻害薬の方が糖尿病の進行を抑えることができると
考えられています。
今回の論文の対象は、ヨーロッパ圏やメキシコであり、アジア圏の日本人に当てはまる訳では
ありません。
今後、海外での糖尿病治療薬のガイドラインがどのように決まっていくのかは判りませんが、
日本人と欧米人は基本的に糖尿病のタイプが異なることを念頭に置き、治療のアルゴリズムを
決めていく必要があると考えます。
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