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Team DiET Colloquium vol.67

65歳以上の高齢者を対象とした骨折予防に必要なビタミンD摂取量<プール解析>

A Pooled Analysis of Vitamin D Dose Requirements for Fracture Prevention
(N Engl J Med 2012; 367:40-49 | July 5, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1109617 [ch0]

【背景】
 ・骨折の約75%が65歳以上に発生する。
 ・2050年までに股関節の骨折が女性で240%、男性で310%に増加することが予測されている。
 ・VitD補充の骨折予防に対する効果は研究により結果が一致しない。


【目的】
 ・65歳以上の高齢者対象とした股関節および非椎体骨折予防に必要なビタミンD補充量を
  実際のビタミンD摂取量(試験プロトコール以外のサプリメント摂取分を含む)によって
  検討を行う。


【方法概要】
 ■デザイン:プール解析(複数の研究の元データを集めて再解析を行う)

 ■対象:ビタミンD補充を行った11の二重盲検化比較試験に参加した65歳以上(31,022名)
  ・二重盲検化比較試験については、以下を対象とした。
    <Ca非併用>:ビタミンD経口摂取群(毎日、毎週、4ヵ月毎)v.s.プラセボ群
    <Ca併用> :ビタミンD経口摂取群(毎日、毎週、4ヵ月毎)v.s.プラセボ群または
           ビタミンD経口摂取群(毎日、毎週、4ヵ月毎)v.s.カルシウム単独群

 ■方法:ビタミンD摂取量により四分位に分け、解析を行う
    ビタミンD摂取量 0〜 360IU/day群:平均摂取量340IU/day
    ビタミンD摂取量361〜 637IU/day群:平均摂取量547IU/day
    ビタミンD摂取量638〜 791IU/day群:平均摂取量693IU/day
    ビタミンD摂取量792〜2000IU/day群:平均摂取量800IU/day

 ■主要評価項目
  ・年齢、性別、居住場所、試験で補正後の股関節骨折および非椎体骨折の発生率

【結果概要】
  ・解析対象は、ビタミンD投与患者15,527例、対象患者15,495例の計、31,022例であり、
   平均年齢は76歳、そのうち90%は女性であった。
  ・股関節骨折は1,111例、非椎体骨折は3,770例であった。

  ・ITT解析の結果、ビタミンD投与患者と非投与患者で有意差はなかったが、以下の結果と
   なり、ビタミンD投与群で股関節骨折および非椎体骨折のリスクが低減した。
     ・ビタミンD非投与群と比し、股関節骨折リスク10%減
     ・ビタミンD非投与群と比し、非椎体骨折リスク 7%減

  ・実際摂取量(プロトコール以外のサプリメント摂取分を含む)を四分位範囲で解析した結果、
   ビタミンD非投与群と比し、骨折リスクの低下は以下の結果となり、最高用量摂取群でのみ、
   有意差をもって、骨折リスクの減少が見られた。
    Vit.D摂取量 0〜 360IU/day群:股関節骨折リスク 不変、非椎体骨折リスク 4%減
    Vit.D摂取量361〜 637IU/day群:股関節骨折リスク 3%増、非椎体骨折リスク 1%増
    Vit.D摂取量638〜 791IU/day群:股関節骨折リスク 1%増、非椎体骨折リスク10%減
    Vit.D摂取量792〜2000IU/day群:股関節骨折リスク30%減、非椎体骨折リスク14%減

  ・また、ビタミンD高用量摂取群を年齢・居住場所・ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD・
   カルシウムサプリメント摂取量でサブ解析しても、骨折リスクの有益性は変わらなかった。


【結論要旨】
 ・65歳以上における股関節骨折および非椎体骨折の予防には、年齢、性別、住居形態を問わず、
  高用量でのビタミンD補充800IU/day(20μg/日以上)が必要であることが示唆された。


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【Team DiET の議論】
 今回の結論は、ビタミンDを処方している医師にとって、考えさせられる内容であったのでは
 ないでしょうか。
 日本人の食事摂取基準2010年版によると、成人のビタミンDの摂取目安量は5.5μg
 (220IU)であり、耐容上限量は50μg(2000IU)と設定されています。
 また、一般的に病院で処方される活性型ビタミンD製剤であるアルファカルシドールは、
 骨粗鬆症の場合、成人0.5〜1.0μg/日とされており、今回の補充量には全く及びません。
 また、ビタミンDの摂取量が中程度(9〜16μg)の場合、ビタミンD非摂取群と比較し、
 骨折リスクが高くなっており、医師の処方しているビタミンDが無駄ということに
 なりかねません。
 本論文では、中程度のビタミンD投与が骨折リスクを高める理由について、コメントは
 ありませんでした。読者の皆さんはどのように考えられるのでしょうか?

 なお、日本でのビタミンDの食事摂取基準は、欧米と比較すると約1/3であり、かなり低い値に
 設定されていながらも、日本人は欧米人に比べ、高齢者の骨折リスクが低いと言われています。
 日本では、青魚(いわし・さんま)や海藻、干ししいたけなどを食べる食文化が根付いており、
 肥満の割合が少ないことが理由としてあげられますが、食の欧米化が進み、日に当たることが
 少なくなった現在において、骨折のリスクは上がっているように思います。
 欧米では、骨折リスクの低減のため、更にビタミンDの摂取基準を上げる動きもあります。
 日本でもビタミンDの摂取基準について、早急に議論する必要があるのではないでしょうか。

 ですが、注意しなくてはいけないのは、ビタミンDの過剰摂取による副作用です。
 本論文では、骨折リスクのみ解析されており、副作用についてのサブ解析が全くされていません。
 高用量のビタミンDを投与した場合、カルシウムの腸管吸収が促進され、高Ca血症を生じることが
 あります。
 その結果、腎臓からのカルシウム排泄が高まり、腎結石や腎機能障害を起こす可能性もあります。
 ですが本試験では、血液中のCaや腎機能について解析を行っていません。
 これらの隠れた有害事象を明らかにした上で、ビタミンDの摂取基準を決めていかなければ
 ならないと考えます。

 これまでの論文で、ビタミンDと骨折リスクについて、統一性が得られなかった原因については、
 サプリメントの自己摂取による影響が大きいことが考えられます。
 特に施設に入所されている場合、利用者のQOL向上のため、施設側がサプリメントを投与している
 ことも考えられます。
 臨床試験が正しく行われるためには、患者さんからの聞き取りは必須です。
 服用している薬だけでなく、サプリメントについても注意を払い、試験に影響がないかを
 正しく判断し、調整を行うことも重要です。

 ※なお、IUは栄養素の量を生理的効果の強さで表す単位です。
  ビタミンDの場合、1IU=0.025μgの換算となります。


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