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Team DiET Colloquium vol.71

慢性腎臓病(CKD)および糖尿病が心筋梗塞リスクに与える影響

Risk of coronary events in people with chronic kidney disease compared
with those with diabetes: a population-level cohort study
(The Lancet, Volume 380, Issue 9844, Pages 807 - 814, 1 September 2012)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60572-8/abstract [ch0]

【背景】
 ・糖尿病患者は、心筋梗塞既往者と同等の心血管リスクを有する。
 ・また、米国の高脂血症治療ガイドライン(NCEP ATP Ⅲ)(2004)によると、
  糖尿病は動脈硬化性疾患再発の超ハイリスク群に分類されている。
 ・しかし慢性腎臓病(CKD)については、心筋梗塞の危険因子であることは報告されていたが、
  リスクの大きさについては明確にされていなかった。

【目的】
 ・CKD・糖尿病・心筋梗塞既往のいずれかまたは複数を有する患者を対象に心筋梗塞の発症と
  総死亡リスクについて、長期の大規模研究による比較検討を行った。


【方法概要】
 ■デザイン:コホート研究

 ■対象:カナダのアルバータ州の住民のうち以下を満たす者(約127万人)
  ・2002~2009年に推算糸球体濾過量(eGFR)と蛋白尿の測定を受けた18歳以上の男女
  ・CKD・糖尿病・心筋梗塞既往のいずれかまたは複数を有する患者

 ■CKDの定義
  ・ベースライン時のeGFRが、15~59.9mL/min/1.73m2(ステージⅢまたはⅣ)とした。

 ■分類
  ・心筋梗塞既往者(糖尿病・CKDの有無を問わない): 12,960例
  ・CKDかつ糖尿病患者(心筋梗塞既往のなし)   : 15,368例
  ・CKD患者(心筋梗塞既往・糖尿病なし)     : 59,117例
  ・糖尿病患者(心筋梗塞既往・CKDなし)     : 75,871例
  ・非CKDかつ非糖尿病患者(心筋梗塞既往なし)  :1,104,713例

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・フォローアップ期間中(中央値48ヶ月)における心筋梗塞による入院
【結果概要】
  ・フォローアップ期間中に心筋梗塞により入院したのは、全体の1%の11,340例であり、
   分類別にみる発症割合は以下の通りであった。
       心筋梗塞既往者    :7.7%( 993例)
       CKDかつ糖尿病患者  :6.0%( 919例)
       CKD患者       :2.8%(1,667例)
       糖尿病患者      :2.4%(1,809例)
       非CKDかつ非糖尿病患者:0.5%(5,952例)
  ・心筋梗塞による入院発生率(未調整)は、以下の通りであり、糖尿病患者よりCKD患者で
   ハイリスクとなった。
       心筋梗塞既往者    :18.5/1000人年
       CKD患者       : 6.9/1000人年
       糖尿病患者      : 5.4/1000人年
  ・しかし、年齢・性別・社会的状況・合併症で補正した後の心筋梗塞の入院発生率は
   非糖尿病患者の心筋梗塞の入院リスクを1とした場合、以下の通りであり、糖尿病患者より
   CKD患者でリスクが低下した。
       心筋梗塞既往者    :3.8
       CKD患者       :1.4
       糖尿病患者      :2.0

  ・フォローアップ期間中に死亡したのは、47,712例であり、分類別にみる発症割合は
   以下の通りであった。
       心筋梗塞既往者    :18.8%( 2,437例)
       CKDかつ糖尿病患者  :30.5%( 4,685例)
       CKD患者       :19.0%(11,253例)
       糖尿病患者      : 8.0%( 6,034例)
       非CKDかつ非糖尿病患者: 2.1%(23,303例)
  ・また、年齢・性別・社会的状況・合併症で補正した後の総死亡リスクは、
   非CKDかつ非糖尿病患者の心筋梗塞の総死亡リスクを1とした場合、以下の通りであり、
   心筋梗塞既往者および糖尿病患者と同等であった。
       心筋梗塞既往者    :1.4
       CKD患者       :1.3
       糖尿病患者      :1.4

  ・心筋梗塞で入院後の死亡リスクは、非CKDかつ非糖尿病患者の心筋梗塞の総死亡リスクを
   1とした場合、以下の通りであり、心筋梗塞既往者や糖尿病患者よりハイリスクであった。
       心筋梗塞既往者    :2.7
       CKD患者       :3.6
       糖尿病患者      :1.9


【結論要旨】
  ・CKDと糖尿病の一方または両方を有する患者の心筋梗塞リスクは、心筋梗塞既往患者と
   同等となる傾向にあった。
  ・心筋梗塞のリスクとして、CKDを糖尿病と同等以上に捉えるべきであり、
   CKDが心筋梗塞の予後マーカーとして有用であることが示唆された。

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【Team DiET の議論】
 1998年に発表された糖尿病患者における心筋梗塞発症リスクを検討したFinnish studyにて、
 心筋梗塞既往のない糖尿病患者と心筋梗塞既往のある非糖尿病者の心筋梗塞発症率が
 同等であることが明らかとなり、糖尿病が冠動脈疾患の危険因子の1つとして分類されるように
 なりました。
 そして今回、CKD患者における心筋梗塞発症リスクが明らかとなり、今後のCKD発症および
 重症化予防に向けた動きに拍車がかかるのではないかと思います。

 CKDは心筋梗塞の発症リスクのみに関わらず、動脈硬化の全般のリスクを負っています。
 しかし、今回の研究では、心筋梗塞と総死亡リスクのみといった大きな解析であり、
 脳血管疾患や感染症、癌のリスクについても、今後、明らかにして欲しいと思います。

 今回の論文におけるCKDの定義は、eGFRのみとなっており、蛋白尿やアルブミン尿については
 明確にされていません。
 蛋白尿やアルブミン尿は、GFRとは独立したCKDの進行因子であることが明らかにされており、
 eGFRだけではなく、蛋白尿についての提示がなかったのは残念です。
 しかし、今回の調査対象患者は、尿蛋白測定を行った者となっているため、今後、蛋白尿の詳細が
 明らかにされることを期待したいと思います。

 また薬剤についても、スタチンの使用割合しか明らかになっておらず、少なくとも、
 血圧コントロールに使用された薬剤(ARBやACE阻害薬)の使用割合を示して欲しかったです。
 ディスカッションにおいて、CKDのみの患者でスタチン使用頻度が低いことを上げ、
 CKD患者における心筋梗塞発症リスクの1つとしてあげていることから、他の薬剤についての
 検証も重要であると考えます。

 CKD患者における今後の治療についてですが、最も考慮すべきことは、心筋梗塞にしても、
 総死亡リスクにしても、「年齢・性別・社会的状況・合併症」で補正する前と後では、
 結果に大きく差が出ていることです。
 CKD患者では、補正を行うと心筋梗塞既往や糖尿病患者以上に、リスクが低下することから、
 今後の治療に関わる重要な因子が隠されていると思います。

 今年7月に発表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012」では、CKDが糖尿病と同等の
 リスクとして加わりました。
 冠動脈疾患の既往がない場合、CKD(ステージⅢ以上)があると、それだけでカテゴリーⅢ
 (高リスク)に分類されます。
 また、冠動脈疾患の既往がある場合、CKDは糖尿病などと併せて、厳格な管理が必要な病態・
 危険因子とされました。

 糖尿病はCKDを進行させる代表的な疾患であり、糖尿病患者がCKDを合併すると、
 動脈硬化リスクが一気に高まります。
 ですが、CKDも糖尿病と同様に血圧・脂質を良好にコントロールすることで、病気の進行・
 合併の発症を抑制することができます。
 そのため今後は、危険因子となる疾患を包括的に治療していくことが重要になると考えます。


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