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Team DiET Colloquium vol.80

多枝病変を有する糖尿病患者を対象とした血行再建術比較試験<FREEDOM試験>

Strategies for Multivessel Revascularization in Patients with Diabetes
(N Engl J Med 2012; 367:2375-2384 | December 20, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1211585

【背景】
 ・近年、多枝病変に対する血行再建術は世界中で広く行われるようになった。
 ・血行再建が行われる多枝病変患者において、糖尿病患者の占める割合が大きい。

 ・糖尿病患者に対する血行再建戦略を比較したいくつかの無作為化試験では、
  冠動脈バイパス術(CABG)の方が、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも
  良好な転帰が得られている。

 ・薬剤溶出性ステントなど、近年のPCIの進歩は目覚ましいが、新たな技術を用いた
  PCIとCABGとの多枝病変に対する血行再建術における大規模な比較はなされていない。


【目的】
 ・糖尿病合併多枝冠動脈疾患における薬剤溶出性ステント(DES)による
  経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)との
  予後改善効果について検討する。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設共同無作為試験(世界140施設)

 ■対象:糖尿病(1型、2型問わず)を有し、以下の条件を満たす患者;1,900例
   ・血管造影による多枝病変の確認
   ・右冠動脈、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回施枝の3枝のうち、異なる2枝以上の
    冠動脈で2か所以上で70%以上の狭窄

 ■割付:(1:1の割合)
   両群、糖尿病については、HbA1c<7.0%、LDL-C<70mg/dL、血圧<130/80mmHgを目指す。
   クロピドグレル、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、スタチンの併用は可。

    ◎PCI群;953例
      薬剤溶出性ステント(DES)を用いたPCI
      積極的な薬物療法の施行(アブキシマブ投与)

    ◎CABG群;947例
      心停止下で人工心肺を使う伝統的CABGと心拍動下で行うオフポンプCABGの
      どちらにするかは、個々の外科医の判断による。

 ■追跡期間:2~6.75年間(生存例では中央値 3.8 年)

 ■主要評価項目
   全死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中の複合発生率


【結果概要】
  ・患者の平均年齢は63.1±9.1歳であり、女性が29%、3枝以上の病変は83%であった。
   また、狭窄数は以下の通りであり、両群に差はなかった。
      PCI群  5.7±2.2
      CABG群 5.7±2.2

  ・主要評価項目の発生率は以下の通りであり、CABG群で有意に少なかった(P=0.005)。
      PCI 群 205例(26.6%)
      CABG群 147例(18.7%)

  ・心筋梗塞の発生率は以下の通りであり、CABG群で有意に少なかった(P<0.001)。
      PCI 群  98例(13.9%)
      CABG群  48例( 6.0%)

  ・全死亡についても以下の通りであり、CABG群で有意に少なかった(P=0.049)。
      PCI 群 114例(16.3%)
      CABG群  83例(10.9%)

  ・しかし、脳卒中については、以下の通りとなり、CABG群で有意に多かった(P=0.03)。
      PCI 群  20例( 2.4%)
      CABG群  37例( 5.2%)

  ・主要評価項目の治療後30日間発症率は、PCI群の方がCABG群よりも有意に低かった。
   しかし、2年後辺りより逆転し、5年後にはPCI群の方がCABG群よりも有意に発生率が
   高くなった。

  ・再血行再建術(12ヶ月後)は以下の通りであり、CABG群で有意に少なかった(P<0.001)。
      PCI 群 117例(12.6%)
      CABG群  42例( 4.8%)


【結論要旨】
 ・糖尿病を合併する多枝冠動脈疾患において、PCIよりCABG施行の方が、
  心血管イベント発生率が有意に低く、長期成績が良好であることが示された。


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【Team DiET の議論】
 本論文を読んで真っ先に思ったのは「内科がんばれ!」という気持ちです。
 複雑な病変についての予後改善効果は、やはり薬剤溶出性ステント(DES)を用いても、
 PCIはCABGにかなわないと思い知らされました。

 今回PCIがCABGに勝ったものは、脳卒中の発生率しかありません。
 CABGの方が脳卒中の発生が多かった理由として、術中の人工心肺の使用が理由として
 挙げられていますが、近年、人工心肺を用いないオフポンプCABGが増加しており、
 CAGBによる脳卒中のリスクは低減すると考えられています。
 日本では、CABGを施術するにあたり、ダ・ヴィンチを使用する医療機関も増えており、
 ますます術後の予後が改善され、CABGの有意性は確固たるものになりそうです。

 しかし、この結果をすぐに鵜呑みにし、日本人に当てはめるのは、早急かもしれません。
 今回の結果だけみると、PCIを施術した患者のうち、16%の患者が何らかの理由で
 死亡しています。
 この術後死亡率、日本では考えられるでしょうか?

 日本のPCI技術は、世界でも非常に高いレベルにあり、経過観察の受診率も高いため、
 ここまでの死亡率にならないと考えられます。
 PCIは術者間の差が大きく、治療レベルが予後改善効果を左右している可能性があります。

 PCIは薬剤溶出性ステント(DES)の使用により、再狭窄の割合が低下しましたが、
 糖尿病患者には予防効果が低く、本試験でも再血行再建術の割合は有意にPCI群で
 多くなっています。
 はじめに「内科がんばれ」といいましたが、これまでPCIは再狭窄に対し、ベアメタル
 ステント(BMS)や薬剤溶出性ステント(DES)を生み出し、治療効果を格段に上げた
 歴史から出た思いです。

 CABGはダ・ヴィンチの登場により、PCIの十八番であった低侵襲手術を獲得しています。
 PCIの安全性をさらに高める技術革新も重要ですが、最も問題になるインターベンション
 以外の部位からの新規狭窄の出現に歯止めをかけない限り、CAGBの優位性は続くのでは
 ないでしょうか?
 内科の技術革新としてがんばらなければいけないのは、二次予防に向けた包括的リスク
 介入といえるかもしれません。


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