Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.50
抗PCSK9モノクローナル抗体投与によるLDLコレステロールへの効果(Phase1)
Effect of a Monoclonal Antibody to PCSK9 on LDL Cholesterol
(N Engl J Med 2012; 366:1108-1118 | March 22, 2012)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1105803
【背景】
・前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9(PCSK9)は,セリンプロテアーゼの一つである。
・PCSK9は、肝臓から血液中に分泌され、LDL受容体に結合し、その分解を加速させるため、
LDL-Cを上昇させる。
・PCSK9の機能喪失変異を持った人は、冠動脈疾患の発症率が有意に低い。
【目的】
・REGN727/SAR236553(REGN727)と呼ばれる抗PCSK9モノクローナル抗体を投与した
phase1 studyを3件実施し、その臨床効果を検討した。
(単回投与:2件(静脈および皮下投与)、反復投与:1件)
【方法概要】
≪単回投与試験≫
●デザイン
・無作為試験
・静脈投与群(40名)または皮下投与群(32名)とそれぞれプラセボ群と比較
●対象:以下の条件を満たす18〜65歳の健常男女
・血清LDL-C>100mg/dl
・収縮期血圧:95〜140mmHg、拡張期血圧:60〜90mmHg
・12誘導心電図:正常
・スタチンによる治療を受けていない
●割付(REGN727投与群:プラセボ群=3:1の割合)
◎静脈投与群(40名):
・各6名ずつを1.0、3.0、6.0、12.0mg/kg投与群に割付し、REGN727を静脈投与
・それぞれプラセボ静脈投与群(各2名ずつ)と比較
◎皮下投与群(32名):
・各6名ずつを50、100、150、250mg投与群に割付し、REGN727を皮下投与
・それぞれプラセボ皮下投与群(各2名ずつ)と比較
≪反復投与試験≫
●デザイン
・無作為試験
●対象:以下の条件を満たす18〜65歳のヘテロ接合体家族性高Chol血症(FH)または、
非ヘテロ接合体家族性高Chol血症(Non-FH)
・アトルバスタチンで治療中のFHおよびNon-FHでLDL-C>100mg/dlまたは、
食事療法中のNon-FHでLDL-C>130mg/dl
・TG≦300mg/dl
・降圧剤は3剤以下で血圧コントロール
●割付
◎FH群(21名):
・各7名ずつを50、100、150mg投与群に割付し、REGN727を1、29、43日目に
皮下投与
・それぞれプラセボ皮下投与群(各2名ずつ)と比較
◎Non-FHスタチン群(30名):
・各8名ずつを50、100、150mg投与群に割付し、REGN727を1、29、43日目に
皮下投与
・それぞれプラセボ皮下投与群(各2名ずつ)と比較
◎Non-FH食事療法群(10名)
・8名にREGN727 150mgを1、29、43日目に皮下投与
・2名のプラセボ皮下投与群と比較
■評価項目
◎主要評価項目
・治療に伴う有害事象の発生
◎副次的評価項目
・血清LDL-C値、T-Chol値、その他血清脂質・リポ蛋白値の変動
【結果概要】
・単回および反復回REGN727を投与した被験者において、有害事象による中止はなかった。
・しかし、単回および反復回ともに全体の有害事象の割合はプラセボ群より高かった。
・単回および反復回のいずれもREGN727投与により、LDL-Cが有意に低下した。
・単回投与(健常男女)では、プラセボ群と比して、最大65%までLDL-Cを低下させた。
・LDL-C低下の程度と持続期間は用量依存性であるが、静脈投与では持続性が短く、
ばらつきが大きかった。
・また、皮下投与では、150mgと250mgでLDL-C低下の程度に違いが見られなかった。
・反復投与試験を行ったアトルバスタチン治療中の患者(FHおよびNon-FH)では、
LDL-Cは以下の結果となった。
(カッコ内はベースラインからの変化量をプラセボと比較した割合)
・50mg投与群 :77.5 mg/dL(-39.2%)
・100mg投与群:61.3 mg/dL(-53.7%)
・150mg投与群:53.8 mg/dL(-61.0%)
・LDL-C低下は、FHまたはNon-FH、あるいはアトルバスタチン投与または食事療法に
関わらず、プラセボ群と比し、有意に低下した。
・また、T-Chol、nonHDL-C、apoBも同様に変化し、リポ蛋白aの減少も同様に見られた。
・反復投与試験では、初回投与後2週間でLDL-C低下の最大効果を発揮した。
・また、スタチンはPCSK9の産生も促進するので、食事療法群(スタチン非投与)の方が、
REGN727の効果持続時間が長かった。
【結論要旨】
・抗PCSK9モノクローナル抗体であるREGN727により、健常男女およびFHまたは
Non-FH患者のLDL-Cが有意に低下した。
・free PCSK9の減少とLDL-Cの減少に相関がみられた。
・REGN727の効果とアトルバスタチンの効果は相助作用ではなく、相加作用である。
・REGN727は受容体分解を減らすのに対し、スタチンは受容体産生を増強させるため、
スタチンの方がより本質的といえる。
・しかし、REGN727の作用は2週間で最大であり、スタチンと比して短期間で効果を発揮する。
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【Team DiET の議論】
メルマガvol.45では、徐放性ナイアシン投与比較試験について読み、「スタチンを超える
薬は現れないのか・・・」と嘆いたが、本論文はそれを頼もしく打ち破ってくれる内容であった。
今までの脂質治療薬は、スタチン系のように肝臓でのコレステロール合成を抑制する、または
ゼチーアのように食物からのコレステロール吸収を抑制するものだったが、抗PCSK9療法は
これまでとは全く異なる作用メカニズムで働く治療薬であり、『慢性疾患でも抗体療法は
ありえる』と期待させる治療法である。
また治療効果も高く、FHであってもNon-FHであっても、LDL-Cを50%以上下げ、その効果が
約1ヶ月近く持続するため、外来での投与も期待できる。
このREGN727が製品化できれば、話題性の高い薬になる事は間違いないと考える。
更に、2012年3月26日に開催された第61回米国心臓病学会年次学術会議において、
REGN727に関するPhase2試験の結果が発表されており、アトルバスタチン投与中の患者に
REGN727を8〜12週間皮下投与を行うことで、LDL-C平均値がベースラインから、
40〜70%低下することが明らかとなった。
Phase1試験でも、Phase2試験でも有意差は見られないものの、REGN727投与群で有害事象が
多く発生しており、懸念される部分である。
Phase1試験では、アトルバスタチン投与群でCKが急激に上昇した症例もあり、原因についての
解明が待たれる。
今後、Phase3試験の実施も予定されており、長期的な安全性の確約が期待される。
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