Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.53

スタチンによりLDL-Cを長期間に低下させた時の効果について(HPS study 11年間フォローアップ)

Effects on 11-year mortality and morbidity of lowering
LDL cholesterol with simvastatin for about 5 years in
20 536 high-risk individuals: a randomised controlled trial
(The Lancet, Volume 378, Issue 9808, Pages 2013 - 2020, 10 December 2011)

http://www.natap.org/2011/newsUpdates/PIIS0140673611611252.pdf

【背景】
 ・これまでのスタチン研究では、LDL-C値が1mmol/L低下するごとに心血管イベントが
  約20%減少すると報告されている。
 ・しかし、スタチン治療の長期的有効性と安全性については不明である。


【目的】
 ・今回、シンバスタチンによるLDL-Cの長期的低下効果の有効性と安全性を評価する。


【方法概要】
 ■対象:HPS studyに参加し、シンバスタチン群またはプラセボ群の被験者(17,519例)
  <HPS studyについて>
   ◎対象:以下の条件を満たす40〜80歳の男女
    ・T-col≧135mg/dL以下
    ・以下のいずれかと診断された患者
      ・冠動脈疾患
      ・非冠動脈性閉塞疾患
      ・1型/2型糖尿病
      ・高血圧
   ◎割付
    ・シンバスタチン群(10,269例):シンバスタチンを40mg/日投与
    ・プラセボ群(10,267例)
   ◎本試験での結果
    ・シンバスタチン群でLDL-Cが38.6mg/dL低下
    ・主要血管イベントがプラセボ群より23%抑制された。

 ■方法:約5年間のHPS study終了後は個々の病状に応じて治療
   ・シンバスタチン群(8,863例)
   ・プラセボ群(8,656例)

 ■フォローアップ期間:6年(本試験と合わせ、約11年)

 ■主要評価項目
  ・主要血管イベント(非致死的心筋梗塞または冠動脈疾患死、脳卒中、血行再建術)

 ■副次評価項目
  ・上記項目のアナグラム解析
  ・癌の発生率


【結果概要】
  ・本試験終了後のスタチン服用率(自己申告)は以下の通りとなり、両群に差はなかった。
    <追跡1年目>
      ・シンバスタチン群:58%
      ・プラセボ群   :60%
    <追跡5年目>
      ・シンバスタチン群:84%
      ・プラセボ群   :83%
  ・また、追跡5年目のLDL-Cに両群で差はなかった。

  ・本試験終了後の主要血管イベントの発生率は以下の通りとなり、追跡1年目については
   シンバスタチン群で低かったが、その後、両群に差はなくなり、主要血管イベントの
   抑制は認められなかった。
    <追跡1年目>
      ・シンバスタチン群:21.0%
      ・プラセボ群   :26.4%
    <追跡5年目>
      ・シンバスタチン群:21.7%
      ・プラセボ群   :22.5%
  ・また、本試験実施中と終了後の追跡期間を合わせた全追跡期間の癌リスク(発症,死亡)、
   非血管死についても有意な差はなかった。

  ・心血管イベントに対するに対するスタチンの効果は、年齢および以前の脂質に対する治療の
   有無による差は見られなかった。


【結論要旨】
 ・長期LDLを低下させるスタチン治療は、心血管イベントを絶対的に減らす。
 ・これらのことから、スタチン治療の早期開始と長期的な継続を支持する。


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【Team DiET の議論】
 本論文の結果より、脂質異常についても遺産効果がないことが明らかとなりました。 
 これまでの研究で、高血圧についても遺産効果はないことが報告されており、
 脂質や血圧に対する早期の治療介入を促す結果に至らなかったのは残念でした。

 言い換えるならば、今回の結果は、
  ・シンバスタチンを服用すれば心血管イベントは抑制される。
  ・しかし、飲み続けないと効果はない。
  ・また、長期的に服用している患者さんとの心血管イベント発生率は1年間で同等になる。
 となるため、患者自身が早期に治療を行うメリットを感じられないのではないでしょうか。

 とはいえ、早期に治療を行えば、累積としては心血管イベントを抑える事ができるため、
 「どの時点から治療をはじめても長期的な効果に差はないですが、危険な5年を過ごすより、
 今すぐ治療をはじめませんか」と説得し、治療にあたりたいと思います。

 しかし、今回の結果が特に興味深かったのは、血管系に長期的にダメージを与える高血圧や
 脂質異常に遺産効果がないのにも関わらず、高血糖については遺産効果があることです。
 なぜ高血糖のみ遺産効果があるのか、分子機構の解明が待たれます。

 また、HPSの本試験では、糖尿病患者に対するサブ解析も行われており、シンバスタチンを
 服用した糖尿病患者では、心血管イベントが22%抑制され、非糖尿病患者の25%に
 ほぼ匹敵する結果になったと報告されています。
 長期間のフォローアップを含めた本研究におけるサブ解析についての続報も待たれるところです。


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