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Team DiET Colloquium vol.22

2型糖尿病の新しい治療薬について

Management of type 2 diabetes : new and future developments in treatment
(The Lancet, Volume 378, Issue 9786, Pages 182 - 197, 9 July 2011)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60207-9/abstract


【背景】
 2型糖尿病は、様々な遺伝的・環境的要因の相互作用により、インスリン抵抗性や
 膵β細胞機能障害を伴う複雑で進行性の疾患であり、世界的に増加の一途を辿っている。
 また、糖尿病は様々な合併症を伴う疾患であり、血糖コントロールが治療の鍵となる。
 しかしながら、血糖を完全にコントロールでき、副作用のない治療薬は未だ開発されていない。


【目的】
 2型糖尿病の新たな治療法が開発される必要があり、それは血糖コントロールを維持し、
 β細胞機能低下を抑制し、体重減少を助長し、低血糖を回避し、心血管系疾患への
 良好な効果を有するものでなければならない。
 現在も様々な治療薬が開発されており、これまでに発表された新しい治療薬について、
 検討する。


【結果概要】
 以下に現在開発中の2型糖尿病治療のための治療薬および治療法を示す。

 <新しいインクレチン関連治療薬>
  ・食事で摂取されたグルコースへの高いインスリン応答は、インクレチンによってもたらされ、
   インクレチン効果は、健常人のインスリン分泌の50%以上を引き起こすとされる。
  ・主要なインクレチンとしてGIPとGLP-1があるが、GIPは肥満を助長させるのに対し、
   GLP-1は摂食を抑制の効果があるため、インクレチン関連薬としては、
   GLP-1がターゲットとされ、開発が進んでいる。
  ・現在、インクレチン関連薬としては、GLP-1受容体作動薬(exenatide, liraglutide)と
   選択的DPP-4阻害薬(sitagliptin, vildagliptin, saxagliptin)が用いられている。
  ・新しいGLP-1受容体作動薬として、短時間作用型(lixisenatide)や
   長時間作用型(週1回投与のexenatide、taspoglutideなど)が開発されており、
   第Ⅲ相臨床試験が進行中である。
  ・新しいDPP-4阻害薬としては、linagliptin(注:2011年7月に日本で製造販売承認)、
   alogliptin(注:2010年4月に日本で製造販売承認)が第Ⅲ相臨床の評価中である。

 <グルコキナーゼ活性化薬>
  ・グルコキーナーゼは、β細胞内でグルコースのリン酸化を促し、インスリン分泌を増強する。
   また、肝臓でのグルコース利用亢進作用も確認された。
  ・インスリン分泌を促すだけでなく、糖代謝も促す二面性を持つ薬として開発中である。

 <グルカゴン受容体拮抗薬>
  ・2型糖尿病は、空腹時のグルカゴン濃度が高く、食後のグルカゴン分泌の抑制も
   障害されている。
  ・グルカゴンはグルコース排出抑制を妨害し、GLP-1受容体作動薬は、グルコース依存性の
   インスリン分泌を促すため、相互性を利用したデュアルアクションペプチド
  (Pegylated DAPD)の研究が行われている。
  ・また、GLP-1及びグルカゴン受容体作動薬であるOxyntomodulinの研究が行われている。

 <インスリン作用促進薬>
  ・インスリンがインスリン受容体のαサブユニットと結合し、βサブユニットが
   リン酸化されることで、インスリン活性が発揮される。
  ・インスリン受容体チロシンキナーゼを活性化する非ペプチド代謝産物であるL-783281は、
   インスリンと競合することなく、インスリン受容体βサブユニットと選択的に
   相互作用するが、有毒性があるため、人では使用できない。
  ・有毒性の少ない新しいL-783281の開発が始まっている。

 <SGLT2阻害薬>
  ・腎臓でのグルコースの再吸収の役割を行うのがSGLT2であり、通常で1日に約180gの
   グルコースが産生されると言われている。
  ・SGLT2によるグルコースの再吸収を抑えて、より多くグルコースを尿として
   排泄させることで、インスリンとは関係なく、血糖値を抑えることができる。
  ・SGLT2阻害剤であるDapagliflozinは、低血糖リスクは低く、空腹時及び
   食後の血糖値やHbA1c、体重を減少させるものの、軽度な副作用が報告されている。
   (注:現在も発ガンのリスクなどから、FDA諮問委員会で承認されていません。)

 <G6Pase阻害薬>
  ・G6Paseは、グリコーゲン分解と糖新生の最終ステップで、G6Pをグルコースへ返還する。
  ・G6Paseを阻害することで、肝臓からのグルコース排出を減少し、グルコース濃度を
   低下する。
  ・動物での研究では、G6Pase阻害は急速に血中グルコース濃度を減少させた。
  ・G6Pase阻害の欠点としては、低血糖を起こしやすいこと、肝脂肪変性を誘導するこが
   示唆される。
  ・これらの欠点を解消できる他のターゲットも確認されており、研究が進められている。

 <GIP活性阻害薬>
  ・GIPは、脂肪細胞における脂肪蓄積を促進し、グルカゴン分泌を抑制しないが、
   逆にGIPの活性を阻害することで、エネルギー消費を増加し、脂肪蓄積や脂肪毒性を
   減少させた。
  ・GIP阻害により、筋肉のグルコーステイクアップを強め、肝臓のグルコース排出を減少させ、
   β細胞機能を亢進させる。

 <11βHSD1阻害薬>
  ・11βHSD1は、低活性であるコルチゾンをより活性のあるコルチゾールに
   変換する酵素である。
  ・11βHSD1の欠損マウスは、インスリン抵抗性が減少し、ストレス誘導肥満を防ぎ、
   グルコース耐性を改善し、インスリン分泌応答が強まる。
  ・また、高脂血症患者におけるTC、LDL-C、TG濃度の減少も示されており、
   付加的に心血管系への利点を供する薬剤として、注目されている。

 <PPAR-γ作動薬>
  ・PPAR-γ作動薬は、インスリン感度を改善し、2型糖尿病に対する確立された治療法であり、
   PPAR-α作動薬は、脂質異常症に対する確立された治療法である。
  ・PPAR-γとPPAR-αのデュアル作動薬であるAleglitazarは、副作用も少なく、
   2型糖尿病患者に対して空腹時およぼ食後のグルコース濃度、インスリン抵抗減少、
   脂質改善などをもたらした。
  ・現在、第Ⅲ相臨床試験中(ALECARDIO)であり、急性冠動脈疾患後の
   2型糖尿病患者においての心血管リスク低減について評価中である。

 <ドーパミンD2受容体作動薬>
  ・ブロモクリプチンは、ドーパミンD2受容体に作用するドーパミン作動薬であり、
   プロラクチノーマの治療薬として、利用されている。
  ・ブロモクリプチンは、インスリン分泌を増加させることなく、肝の糖産生を
   低下させることにより、血糖を低下させるため、糖尿病の治療薬として検討が行われている。

 <胆汁酸抑制薬>
  ・胆汁酸抑制薬は、脂質異常症の治療法として確立されており、心血管疾患のリスクを
   減少させ、さらに、2型糖尿病患者のグルコース濃度も減少させる。
  ・米国では、胆汁酸抑制薬のコレセベラムが、2型糖尿病患者の生活習慣改善の
   補助薬として認可された。

 <肥満外科手術>
  ・欧米を中心に、高度肥満に伴う健康障害改善を目指して、体重減少を目的とした
   肥満外科手術が行われてきた。
  ・肥満外科手術には、胃バンディング(LAGB)、胃形成術(SG)、胆膵バイパス術
    (BPD)、胃バイパス術(RYGB)がある。
  ・過去14年間に胃バイパス術を施行された608人の患者の結果が公表され、
   体重コントロールが持続するとともに、2型糖尿病患者のうち83%が、HbA1c及び
   血中グルコース濃度が正常に維持された。
  ・また、胆膵バイパス術は、BMI:35以下の2型糖尿病に対する有効性が示されている。
  ・しかし、胃バイパス術や胆膵バイパス術による2型糖尿病の寛解効果は、体重減少とは
   独立した効果と考えられる。
  ・肥満外科手術は、2型糖尿病治療法の重要なオプションであるが、更なる
   エビデンスが必要である。 


【結論要旨】
  ・これまでに確立された血糖低下療法に加え、インクレチン療法も選択枝となってきたが、
   長期的効果は不明である。
  ・新しい治療ターゲットも同定されてきており、血糖値を低下させる新しい化合物が
   開発中である。
  ・週1回投与の新しい方法は、患者満足度や治療コンプライアンスを向上させる。
  ・新しい治療法は、長期間での安全性のデータが不足しており、
   リスクを考慮した対応が必要である。
  ・メトホルミンは安全性や治療効果が確立されており、2型糖尿病のファーストラインの
   治療法である。
  ・肥満外科手術は興味深い治療法だが、さらなるエビデンスが必要である。


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【Team DiET の議論】
 これまでに開発されてきた薬もそうであるが、糖尿病の新しい治療薬を考える際には、
 ターゲットとなる物質が、本来何に機能するのかを考えることが大切である。
 とりあえず血糖が下がれば良いと研究を始めてしまっては、
 いずれは生物のホメオスタシスを乱すことになり、破綻を来すことは目に見えている。

 糖新生は糖尿病にとっては悪であるが、糖新生を抑制してしまえば、脂肪酸が分解されなくなり、
 今度は脂肪変性が起こってしまう。
 糖新生は運動する際には必要な機能であり、また必要以上に抑制してしまうことで
 低血糖のリスクが高まることが懸念される。
 糖新生抑制を目的に開発されてきたG6Pase阻害薬も薬としては面白いが、
 現時点では現実的とはいえない。

 糖尿病の治療薬の分野は、これだけ医学が進歩してもなお、数多くの開発が行われている。
 開発中の薬については、学会の講演などで話を聞くことができるが、実際に治験が
 行われるのは首都圏のクリニックがほとんどで、金沢といった地方の大学病院では、
 治験はほとんど行われない。
 そのため、Team DiETでは治験ネットワークを立ち上げ、治験に伴う試験を北陸に
 誘致している。


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